残念な上司は無自覚なパワハラに気づかない 若者を病気や死まで追い込む深刻な職場問題

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第3は、「無自覚な悪ふざけや悪ノリ」である。

上司は悪ふざけをしているつもりでも、それが法令や社会通念に照らし合わせれば、パワハラになるということである。

佐川急便で発生した「つばを吐きかける」「エアガンで撃つ」というのは、小学生のいじめかと思ってしまうほど幼稚な嫌がらせであり、流石に、ここまで極端な例は珍しいと思う。

だが、上司が無自覚に上司としての優越的立場を利用して、本人が望まないことを強制したり、本人を不快な気持ちにさせたりすることは、少なからず発生していると思われる。

私自身の経験でも、会社の飲み会において、カラオケで上半身を脱ぐことを強制されたりとか、二次会を辞退して帰路につくと、その途中「お前が1次会で帰るのは10年早い」というような電話がかかってきたりしたこともあった。

本人がいじられることを心から楽しんで、上半身を脱いだりバカ騒ぎをしたりしていれば良いのだが、会社にはさまざまな価値観を持った人が働いているので、上司と部下の価値観が同じということのほうが珍しいであろう。

上司が「本人も楽しんでいる」と思い込んでいるだけで、本人は上司に逆らえないので、道化を演じたり、愛想笑いをしている可能性もある。

電通の高橋まつりさんが残したSNSにも、「男性上司から女子力がないと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても限界である」というコメントが残されていたということである。

上司という立場にある人は、「部下は自分が思っている以上に上司に気を使っている」ということを認識しておいたほうが良い。

それでは、このような「無自覚なパワハラ」の発生を防止するためには、会社はどのような対応をすべきであろうか。そのために必要な、3つの施策を提案したい。

研修を徹底的に行うこと

第1は、上司たる立場の社員への管理職研修の徹底である。

管理職に対するマネジメント等の研修を行っている会社も少なくはないと思うが、そのような研修の中でパワハラの防止に関する研修を徹底的に行うということである。

私が社会保険労務士として経営者の方や幹部社員の方と話をしていても、「え、これだけでもパワハラになる可能性があるのですか!?」という反応を受けることも少なくない。

パワハラになるのは「殴る・蹴る」とか「胸ぐらを掴む」といったレベルのことであり、「ファイルで机を叩く」とか「同僚の前で叱責する」というようなこともパワハラに当たるとは思っていなかったという経営者や幹部社員の方は、決して珍しくないのである。

であるから、「パワハラを行ってはいけません」というお題目を教えるだけでなく、たとえば前述した厚生労働省の「あかるい職場応援団」のポータルサイトの読み合わせをして具体的にどのような行為がパワハラになるのかを確認したり、具体的イメージが持てるよう研修の中にディスカッションやロールプレイングを導入したりすることも良いであろう。

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