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人工光合成は“人類の夢”から
“必ず実現しなければならない課題”へ

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可視光で水から電子を取り出す

人工光合成には大きく分けて植物の光合成を人工的に利用するもの、ホンダ―フジシマ効果で知られる半導体による水の光分解を発展させたもの、クロロフィルにヒントを得た金属錯体を用いるもの、の三つがある。いずれの方法でも日本は世界をリードしている。井上教授たちの研究は3番目の金属錯体を用いる方法だ。「これまでの金属錯体を用いた人工光合成の研究には、まだ解決しきれていない問題が多くあります」。井上教授は続ける。「中でも最も大きな問題が、水からどうやって電子を取り出すかなのです」。水はエネルギー的にも物質循環的にも理想的な電子の供給源だ。とはいえ、安定しているだけに簡単には電子を手放そうとしない。

「紫外線ならば問題は軽減しますが、紫外線は太陽光に数%しか含まれていません。太陽光エネルギーを有効に使いこなすためには、その大半を占める可視光を利用する必要があるのです」。

幾多のトライアルの末に1982年、米国で生み出されたのが、金属と非金属の原子の化合物である金属錯体を使って、水から四つの電子を取り出す方法。とはいえ、これも決定打とはならなかった。

「一つの電子を取り出すには一つの光子が必要です。つまり、四つの光子が要ります。ところが、光子というのはさながら雪のように、秒単位の間隔を空けて一つずつゆっくりと降りてくるため、次の光子を待っている間に、金属錯体の反応中枢が活性を維持できなくなってしまうのです」。

植物はいわば漏斗のような仕組みをいくつも備えており、光子を集めて反応中枢にまとめて送り込むことにより、光子束密度の小ささを克服している。人工のプロセスではこの漏斗がないため、ケミカルで電子を取り出さざるをえなかった。あくまで可視光で反応を進めるためにはどうすればよいか……。井上教授が発見したのが、1光子2電子酸化反応だった。

「一つの光子で、一度に二つの電子を取り出すのです。四つの光子が降ってくるのを待つ必要がないため、希薄な太陽光でも反応を維持できます。しかも、水から2電子を取ると、残った酸素が活性化され、エポキシ化合物などの有用な酸化生成物ができます。酸素が発生するよりも、このほうが有益であり、かつ無害なのです」。

かくて、光と水の、本物の人工光合成の可能性が見えてきたのである。

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