日本株の救世主か、「GPIF」って何 資金運用は世界最大、賃金は世界最低?

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その結果、「世界最大の巨額資産を担当する組織が、(同様の組織としては)世界で最低賃金で働いている」(有力運用会社)という悲喜劇のような事態になってしまっているのだ。

それを克服するには、独立行政法人へのしばりを緩和するか、あるいは、独立行政法人以外の法的性格を有する機関へ移行させるかしかない。このテーマがいずれ議論の俎上に載せられることは間違いないだろう。

問題はそれだけではない。公的年金という資産の運用に関する、国民的な理解も必要となる。低リスク資産ではなく、株式というリスク性資産を拡大するとなれば、株式相場の動向次第で、年度末の資産評価などの際に多大な含み損が発生することがありうる。そうした場合、過去のケースではメディアが敏感に反応し、運用主体に対する過激なバッシング報道に出たことも少なくない。

もちろん、国民の老後を支えるための重要な資金であるだけに、批判を受けるのも避けられない。だが、問題は批判の根拠だ。

批判が激しすぎると、低リスク資産に傾きがちに

たとえば、GPIFの前身である旧年金福祉事業団は、15年間の資産運用の結果、1兆7000億円の累積損失を発生させて、廃止された。その際、多くのマスコミは巨額損失発生の批判報道に動いたが、その内容は「いやしくも国民の老後資金である年金積立金で損失を出したのは許されない」という主旨が多く、ガバナンスやリスク管理など体制面についての指摘は乏しかった。

年金資産は長期の運用資産であり、相場変動による評価損失や短期的な評価にはなじみにくい。にもかかわらず、評価損失が発生すれば、直ちに運用を問題視するなうな向きもないわけではない。過去の国会論戦でも「評価損失=悪」という構図の批判が出たことがある。

そうした外部の動向が激しくなれば、運用主体は「国債などの低リスク資産運用に傾きやすくならさぜるをえない」(投資顧問会社)。GPIFも、GPIFを監督する厚生労働省も、その例外ではない。

政府は今後、「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」を設置し、論議をさらに深めていく考えだ。その議論の過程において、体制面の問題を解決し、さらには、国民的な理解の深化が進むことが求められる。

(撮影:梅谷 秀司)
 

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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