日本銀行・黒田総裁へ、7つの緊急提言 日銀「異次元緩和」の弱点をFedウォッチャーが分析

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FRBでは、ゼロ金利政策の解除を判断する材料として、具体的なインフレ率と失業率の水準を設けている。このうちインフレ率については、「1〜2年後のインフレ見通しが長期インフレ目標を0.5%以上、上回らない間」ゼロ金利政策を続けるとしている。

FRBは、短期間であればインフレ率が長期インフレ目標(2%)を超えても構わないというリフレ的な姿勢を示すことで、市場参加者の緩和期待をつなぎ止め、インフレ率が2%の手前でデフレ側へ折り返すのを防ごうとしているのである。

デフレマインドが根強く残り、外需への依存から外的ショックに脆弱な日本経済にとって、デフレに対するバッファはアメリカ以上に大きくとってもよいくらいだ。

提言7:コミュニケーション委員会を立ち上げ、出口戦略を構築せよ

これまで述べてきたことはすべて、コミュニケーション政策がうまく行っていないことに起因する。バーナンキFRB議長は、理事時代に「金融政策は市場参加者との協調ゲームである」と語っている。日銀はオペの運用について市場参加者と意見交換会を開いているが、それだけでは不十分だ。そもそもの「量的・質的金融政策」の骨格について、これまで提案してきた内容を含め、そのロジックを再構成し直すべきである。

そのためにFRBがそうしているように、コミュニケーション委員会を立ち上げるべきだ。日銀スタッフや学界には、予想への働きかけに関する研究に造詣の深い専門家が大勢いるだろう。そうした人材を積極的に登用し、スムーズなコミュニケーションを可能とすることで不要な金利ボラティリティの抑制に努めて欲しい。

コミュニケーション政策の一環として出口戦略も構築すべきだ。適切な出口戦略を示すことによって、将来の不確実性が抑えられ、インフレ期待の高まりや金利上昇を抑制し、金融バブルの芽を摘むことも期待できる。出口戦略には手順や手段(新たな手段の創設も含む)だけでなく、FRBが示しているように、出口戦略に取りかかるまでの時間軸も含むべきだろう。
 

小野 亮 みずほリサーチ&テクノロジーズ プリンシパル

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おの まこと / Makoto Ono

1990年東京大学工学部卒、富士総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社。1998年10月から2003年2月までニューヨーク事務所駐在。帰国後、経済調査部。2008年4月から市場調査部で米国経済・金融政策を担当後、欧米経済・金融総括。2021年4月より調査部プリンシパル。FRB(米国連邦準備制度理事会)ウォッチャーとして知られる。

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