「目立つ戦争」と「目立たない戦争」がある理由 基本的に米国人は他国の紛争に無関心だ

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だがダルフールには、シンプルで感情に訴える物語があった。スーダンの独裁者バシル大統領とその取り巻きは、何の罪もない民間人多数を虐殺していたが、米国にはそれを阻止できる可能性があった。約10年前にルワンダでの集団虐殺を阻止できなかった米国にとっては、その償いをするとともに、正しい教訓を学んだことを示すチャンスのようにも受け止められた。結果として、ダルフール紛争の物語と大義は米国人の心に大いにアピールした。

また、米国内の当時の政治状況ともうまく合った。ジョージ・W・ブッシュ大統領が始めたイラク戦争から手を引き、その代わりにダルフール紛争への介入を求める「イラクを出てダルフールへ」というスローガンは、イラク戦争に反対するデモや集会でもよく使われた。ブッシュの政策に賛成はしないが米国が孤立主義に走ることも望まない人々にとって、「ダルフールを救え」は米国の力を行使する新たなビジョンの象徴になった。

スポットライトは一時的、すぐに忘れ去られる

だがダルフールはシリア同様、ごく例外的な事例だった。

コンゴ東部の紛争を例に取ろう。ここではダルフールやシリア同様、多数の民間人が犠牲になった。暴力や飢餓、病気により数百万人が命を落としたとの推計もある。さらに数百万人が故郷を追われた。反政府勢力は強姦を戦争の「武器」として使い、子どもたちを徴用して少年兵にした。ダルフールを救うための運動に参加した多くの人々が、コンゴ東部の紛争についても人々の意識を高めようと努力した。

だがコンゴの内戦の図式はそれほど単純ではなかった。ダルフールのようなわかりやすい悪者はおらず、いくつもの武装集団が離合集散し、ほぼすべてのグループが残虐行為の責任を問われている。

米国の国益にとってもさしたる重要性はない戦いだった。コンゴ東部はスマートフォンなどの電子機器に使われるタンタルなどの鉱物の主要な生産国だが、米国人のほとんどはタンタルなど聞いたこともなければ、その産地に思いを馳せることもまずない。

有名人を巻き込んでのキャンペーンが続けられたほか、一部のコラムニストはニューヨーク・タイムズなどの新聞でこの紛争を繰り返し取り上げた。にもかかわらず、コンゴ東部の紛争に対する米政官界や一般世論の関心は長続きしなかった。

スポットライトを浴びたのもつかの間、すぐに忘れ去られてしまった紛争はほかにも数多い。ナイジェリア北部で2014年、イスラム過激派「ボコ・ハラム」が200人以上の女子生徒を誘拐した際、米国世論は大いに怒り、ツイッター上では少女たちの返還を求める投稿が広がり、政府に対応を求める声も高まった。だがナイジェリア政府が少女たちを救出できないまま数カ月が過ぎると、米世論の関心は弱まった。

その2年前には、ウガンダ北部やコンゴ、南スーダン、中央アフリカ共和国で長年にわたってテロを繰り広げてきた反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」の指導者ジョゼフ・コニーの逮捕を訴えたビデオを市民団体が公開、ネットで大きな話題となった。だが、ブームは同じようにすぐに消えてしまった。

今も南スーダンで続く政府軍と反政府勢力の衝突や、中央アフリカ共和国の内戦は米国ではほとんど話題になっていない。30年を超えてくすぶるソマリアの内戦もそうだ。

ほとんどの紛争はイエメン内戦と同じ扱いなのだ。シリア内戦やダルフール紛争とは違う。

(執筆:Amanda Taub記者、翻訳:村井裕美)

(c) 2016 New York Times News Service
 

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