ジャバラ型浣腸「ひとおし」は何がスゴイのか ギリギリの宣伝戦略で若年層にアピール

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ムネ製薬の西岡一輝社長

まず、容器を薄くしてみました。押しやすくなりますが、ぺこんとなって元に戻りません。ノズルの先に向けて縮まる縦方向のジャバラ型も作りました。しかし実際に使用すると、逆手になって抜けてしまいます。

開発担当者は、試作品ができるたびに自宅に持ち帰り、容器に水を入れて何度も自分で試しました。家族からは「家でやらんといて」と言われ、置き忘れた容器を娘の友達に目撃されて娘さんからしかられるなど、苦労したそうです。

「何とかせねば」と思っていた会長の西啓次郎氏が、2002年、旅行先ウィーンの街角でアコーディオン演奏に出会います。「これだ!」と思い付き、帰国後、アコーディオンのように横方向に収縮する容器の製造に取りかかりました。予想以上に成形が難しく、容器メーカーと試行錯誤の末どうにか試作品ができたのは2年後でした。浣腸をする準備の際、トイレの床に置いても倒れないよう底を平らにする工夫も加えました。

こうして、苦心の末、2006年秋に完成。指でつまむと液が勢いよく飛び出し、使用後の液残りも半分になりました。次は名前です。インパクトのあるネーミングを社内で募集しました。会社の幹部は「プッシュ」「浣腸Z」といった名前を想定していましたが、社内では「ひとおし」を支持する声が圧倒的でした。

横方向に収縮する容器

長年医薬品に携わっている感覚からは違和感がありましたが、全国販売すると、わかりやすい名前だ、と好評でした。それまで関西のローカルブランドだったコトブキ浣腸は、「ひとおし」の販売で一気に全国区に躍り出ます。

現在、国内1万5000店舗のドラッグストアの内、1万~1万2000店舗に置いてもらっています。発売10年で当初ゼロだったものが累計出荷2700万本の大ヒット商品となりました(ちなみに「コトブキ」ブランドは、長寿を願う「寿」から取られています)。

若者は浣腸を知らない

浣腸といっても、普段はあまりなじみがありません。病院で検査や手術前に看護師さんにしてもらったり、妊婦さんが出産前に使うぐらいです。筆者の周りでも日頃愛用している、という人はあまりいません。

「現在、年間9300万本ぐらいが使用されています。60歳までが4割、60歳以上で6割の割合です。男女比率は、60歳までは女性が7割、60歳以上は半々です。問題は若い方で、浣腸を知らない、やったことがないという人が多いことです」

昭和30年代までは、少々の便秘は家の常備薬の浣腸で治していました。医療費が高くて皆さんあまり病院には行けません。我慢するか、家で直すというのがほとんどでした。浣腸の仕方も、同居しているおじいさんおばあさんが教えてくれました。核家族化が進み、そうした生活の知恵が伝わらなくなったのも浣腸には痛手でした。

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