アメリカで1%の勝ち組が持つものは? オバマ大統領が「所得格差是正」に取り組まなければならない理由

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 格差は「よくわからない理由」からも発生する?

さて、ここまで、中低所得者層に向けた再分配のための「医療制度改革」や、技術革新に対しての「教育の強化」、格差への対抗策を2つお話ししてきました。

 アメリカで格差が拡大している背景には、さまざまな理由があると指摘されていますが、実のところそれは、あらゆるエコノミストに共有されている合意事項というわけではないことを、最後にご紹介しましょう。

オバマ政権でCEA委員長を務めるアラン・クルーガーは、1990年代半ばに格差拡大の理由をエコノミストに聞いて回りました。

その結果、最も多かった回答がこの記事でも触れた「技術革新」で、4割以上がこれを理由に挙げました。

このほかに多かったのが、「グローバリゼーション(国際貿易)」で、1割強の回答が集まりました。

このほか、「物価上昇を勘案すると最低賃金が実質的に低下していること」や、「労働組合の弱体化」、そして「移民の流入」も、それぞれ1割弱の回答となっています。

2012年の講演でクルーガーCEA委員長は、金融業界を中心とした「一部の高給取りの出現」や、「アメリカの税制で富裕層が優遇されている点」なども、格差の理由になっていると述べました。

しかし実は、1990年代半ばの聞き取り調査では、「技術革新」の次に多かった回答は「そのほかのよくわからない理由」

これは正直な意見かもしれません。格差はなぜ起こり、どのように対処すれば良いのか。探求は今も続いているのです。

 

今回は、広がる「格差」と、オバマ大統領が目指す「中間層立て直し」を中心に、アメリカ経済をを考えました。オバマの政治を中心に扱う『やっぱりアメリカ経済を学びなさい』第2章では、さらに詳しい「格差問題」の説明のほか、

オバマが1期目にできたこと・できなかったこと
 (金融危機との戦い、息切れする経済政策等)
今のアメリカ財政は何がいけないのか?
 (アメリカでは所得税を半数近くの人が払っていない、2つの財政赤字、確実な財政破綻等)
日本だけじゃなかった「決められない政治」
 (市場と政治のズレ、政策の不透明性等)
外を向くアメリカ――うちに問題があるときこそ
 (輸出、TPP、移民問題等)
等々を取り扱っています。さらに深く学びたい方はぜひご参照ください。
 

 

 ※次回の更新は6月下旬を予定しています

 

小野 亮 みずほリサーチ&テクノロジーズ プリンシパル

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おの まこと / Makoto Ono

1990年東京大学工学部卒、富士総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社。1998年10月から2003年2月までニューヨーク事務所駐在。帰国後、経済調査部。2008年4月から市場調査部で米国経済・金融政策を担当後、欧米経済・金融総括。2021年4月より調査部プリンシパル。FRB(米国連邦準備制度理事会)ウォッチャーとして知られる。

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安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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