「ドラフト1位」で成功する人としない人の差 失敗や挫折を糧にできなければ潰れるだけだ

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中根 仁(なかね ひとし) 1966年、宮城県生まれ。東北高校、法政大学を経て、1988年ドラフト2位で近鉄バファローズ入団。プロ1年目の1989年に10本塁打を放ち、日本シリーズにも出場した。1998年、横浜ベイスターズ(現DeNA)に移籍、38年ぶりのリーグ優勝、日本一に貢献した。2003年シーズン限りで引退。通算成績は、1092試合出場、打率2割6分4厘、78本塁打、351打点。 横浜でスカウト、コーチをつとめたのち、2014年3月、引退後のアスリートとファンを繋ぐポータルサイト『アスリート街.com』を立ち上げ、アスリートのセカンドキャリア支援を行っている

――最初からチャンスをモノにできればいいのですが、すぐにレギュラーをつかめる選手は多くありません。

緊張もするし、想定外のことが起こるとパニックになってしまいます。私もそうでした。二軍の試合で、2度続けてけん制でアウトになったことがあります。チャンスを与えられた場面で失敗をすれば、選手は心に痛手を負います。「また失敗したらどうしよう」と考えてしまうのです。ただ、時間が経てば傷は癒えますが、監督やコーチの信用を取り戻すのは難しい。

たった一度のミスが命取りになることがあります。「ポカの多い選手」という烙印を押されたら、それを払拭することはなかなかできません。ネガティブな評価はずっとついて回るもの。特に「うまくいって当たり前」の守備でのミスはずっと尾を引きます。弱みを見せるとつけ込まれるのがプロの世界です。そういう部分から崩れていく選手もたくさんいました。

――中根さんが1年目を戦い終えた1989年秋のドラフト会議で8球団から指名を受けたのが、ソウルオリンピックの銀メダリストの野茂英雄さんでしたね。

野茂は入団したときから頑固でした。ピッチングフォームは独特でしたが、考え方も生き方も「自分」を持っていました。いい意味で、自分の考えしかない――そんな感じがしました。高校時代は無名でも、社会人野球と日本代表でもまれ、21歳にして大物の風格が漂っていました。

私は仲良しで、よくご飯を一緒に食べにいっていましたが、いつも、「エラーは誰でもしますから」「責任は全部自分にあります」と言っていました。野手がエラーをしても点を取られたら「自分が悪い」と。新人のころから、エースの自覚がありましたね。だから、野手は「野茂に勝たせたい」といつも思っていました。フォアボール、フォアボール、フォアボール、三振、三振、三振という試合ばかりでしたが。

力を発揮できない選手の共通点

――競争の激しいプロ野球で、どんな選手が力を発揮できるのでしょうか。

足の速さや肩の強さ、バッティングの確実性は、プレイを見ればすぐにわかります。表面に出にくいのが、頭の中、考え方の柔軟性です。プロの壁を突破できずレギュラーをつかめない選手の多くが、やわらかさに欠けているように思います。「自分」を持つことは大事ですし、頑固でもいい。ただ、視野が狭くて誰のアドバイスにも耳を貸さない選手は長く活躍するのが難しい。人の意見を聞いたうえで役に立つことだけを受け入れる選手や、頭の切り替えの早い選手は上達のスピードが速いですね。

――甲子園や大学野球でいくらいい成績を残しても、プロ野球で同じよう活躍できるとは限りません。

自分の役割に気づいて、それに見合った働きができるかどうか。練習でいくらホームランを打っても仕方がありません。試合で、どれだけ勝利に貢献できるかが大切なのです。昔のことはきれいに忘れて、目の前の仕事に徹すること。これが最低条件。でも、自分の力量と役割に気づくことがどれだけ難しいか。

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