趣味は恋愛。付き合うなら「ギーク」です 石黒不二代・ネットイヤーグループCEOの好き嫌い(上)

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楠木:石黒さんもその1人だと思いますが、先進的な企業の経営者で、しかもベンチャーで大きくなってという経営者はたくさんいます。その中で、「ちょっとこういう人はイヤだな」と思われたことありますか? 好きなタイプの経営者、嫌いなタイプの経営者。

石黒:経営者というより、多角経営が嫌い。もちろん、どんな企業でも成長しなくちゃいけないので、ひとつの事業だけでは無理です。特に私たちはIT系なので3年後にはなくなるビジネスもたくさんあります。それでも「多角化にもほどがある」という思いはあります。

楠木:ポートフォリオ的にとりあえず張っておいて、よさそうなところを事業化するのはお嫌いだと。

石黒:インダストリーも構わず、勝機があるから事業拡大するというのは違和感があります。IT系なのに証券会社をやるみたいな感じは苦手ですね。株式市場の話として考えたとき、ポートフォリオというのは株主が選ぶものであって、企業が選ぶものではないと私は思います。

では、どういう多角化がよいかと言えば難しいのですが、たとえばマイクロソフト的なもの。グーグルも多角化まではいっていないけど、その線だと思います。あくまでITの分野で、シナジーがあるところに広げていく多角経営がよいのではないかと考えています。

楠木:よくわかります。さっきのエンジニアがお好きという話とまったく同じですね。自分でもこだわりがあって、人間として好きなことを事業になさりたいと。一貫していますね。

石黒:あまりにも多角化すると、経営者のタイプも変わってきますよね。たとえばGEのジャック・ウェルチさんはすごくファイナンス的な経営者だと思います。その点、私たちインターネット系は好きでやっているわけだから、そもそもタイプが違います。ギークの人たちはウェルチ系の競争はしないでしょうね。

たとえば私の息子など、自己中心的ならぬ他者中心的というか、好きなことを追究していて、人を押しのけることがまったくないタイプ。それどころか、人に押しのけられ続けているから、「大丈夫?」と聞くと、「自分はこれでいい」という感じです。私はそういう人がものすごく好きですね。アメリカ社会で生きていくのは無理だと思いますが。

楠木:なるほど。きっとそれが日米共通のギークのひとつの特徴なのですね。御社もIT企業ですから、ギークの方が結構いらっしゃるのですか?

石黒:いますね。私が会社経営をしていていちばん好きなのが、新しいサービスができたり、新しい技術を取り入れてサービスを作ったりすること、そのプロセスを開発者と一緒に見ていくことです。ギーク的な技術者たちも、商品化されて商業的にも成功すると、とてもうれしがります。彼らは競争も苦手だし、人付き合いもうまくない。部の中でちょっと浮いているような人もポツポツいるのです。でも、すばらしい才能を持っていますからね。

楠木:じゃあ、石黒さんはそういうコミュニティでのギークアイドルみたいな?

石黒:いや、まったく、それはないですよ(笑)。でも、うちの会社のギークの人は、私の執務室によく来ます。予備の机があるので、そこでときどき仕事をしていますね。「ここ、座っていい?」みたいに。

楠木:そこがまた、かわいいわけですね。だから彼らの技術が世の中に出たとき、本能的な喜びを共有できるのでしょうね。

(構成:青木由美子、撮影:梅谷秀司)

※ 対談の続きはこちら

楠木 建 一橋ビジネススクール特任教授

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くすのき けん / Ken Kusunoki

1964年東京都生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より一橋ビジネススクール教授。2023年から現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『絶対悲観主義』(講談社+α新書)のほか、近著に『経営読書記録(表・裏)』(日本経済新聞出版)などがある。

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