JR九州の「初値3100円」は、高いのか安いのか 本業の鉄道は厳しいが不動産事業には強み

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それでもJR九州は、公的資金の支援によって鉄道事業を今期(2017年3月期)、初めて黒字化させる計画によってなんとか上場を実現した。前期(2016年3月期)は鉄道事業を含む運輸サービスが105億円の営業赤字であったが、今期は、230億円の営業黒字への転換を見込んでいる。鉄道事業の黒字化により、JR九州の今期連結営業利益は前期比148%増の518億円と大幅に増加する見込みだ。

過去29年赤字だった鉄道事業がいきなり黒転するのは、前期に行った2つの会計処理の結果である。

鉄道事業がいきなり黒字化する理由

① 前期に、鉄道事業の固定資産で5256億円の減損損失を認識している。その効果で、今期から鉄道事業の減価償却費が約220億円減少する。

② 前期に、九州新幹線の鉄道施設使用料2205億円(約20年分)を全額一括前払いしている。その効果で、今期から新幹線貸付料が約100億円減少する。

この2つの会計処理で、今期、鉄道事業の費用は約320億円減少し、鉄道事業は黒字化する。

こうした会計処理を可能にしたのが、国の金融支援だ。JR九州は前期、国から預かっていた経営安定基金3877億円を取り崩して、資本剰余金に組み入れた。

言い方を変えると、国から預かっていた用途に「制限のかかった基金」3877億円を、「自由に使える資金」に組み替えたことになる。新幹線使用料の一括前払いや巨額の減損は、国の金融支援によって実施が可能になったと考えられる。

こうした一連の会計処理を前期中にやっていなければ、今期も運輸サービス事業は90億円程度の営業赤字が出るはずであった。会計基準で認められる範囲で、あの手この手を尽くして鉄道事業を黒字化させ、上場準備を整えたことがわかる。

JR九州は「平成28年熊本地震」で大きな被害を受けたが、前期に鉄道資産を減損しているので、今期の鉄道事業黒字化見通しは変わらない。

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