「日本株はオイルマネーで復活」は甘すぎる もはや産油国は「超大金持ち」ではない

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さらにサウジアラビアが企業価値2兆〜3兆ドル(約208兆〜312兆円)ともいわれる国営石油会社「サウジアラムコ」の新規株式公開(IPO)を目指している(早ければ2017~18年に実現とも)ことにも、注意を払う必要がある。

同国は、原油減産をロシアなどのOPEC非加盟国にも呼びかけ、11月30日にウイーンで開催されるOPEC総会で世界的な供給制限で合意が得られる可能性があることを示唆している。これも、米アップルを上回り世界最大の時価総額になるサウジアラムコのIPOを成功させるためには世界の株式市場の安定が必要条件になるからだ。

これまで原油価格の低迷が世界の株式市場の不透明要因になっていたことを考えると、サウジアラビアがサウジアラムコのIPOを成功させるために、原油価格の上昇を目指す動きを示すのは十分に考えられることだ。

産油国は今や「資金の調達先」、パワーは衰えている

重要なことは、サウジアラビアを筆頭に世界に投資資金を供給して来た産油国は、今や資金調達主体に変わってきているということだ。

こうした現実を鑑みると、「オイルマネーが日本株投資を再開し始めた」と考えるのはあまりに楽観的過ぎるといえる。ヘッジファンドのように、買い戻すことを前提に売る投資家の売りは市場にとって大きな問題ではない。

しかし、財政赤字を補填する資金を確保するためのオイルマネーの売りは、買い戻しを伴わないものである。買い戻しを伴わない売りは、売りが止まることによって下落圧力も弱まるが、買い戻しを伴わないため、株価水準を元に戻すパワーは持ち合わせていない。

しかも、今年になり苦戦が続くヘッジファンドからの資金流出も続いており、反対売買を伴わないヘッジファンドの売買も増えていることが想像される。

戻ってこないオイルマネーと、資金流出が続くヘッジファンド。日本の株式市場の主役である海外投資家内での主役交代は、日本株の価格形成メカニズムにも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。「オイルマネー復活による株価の上昇」に、過大な期待をかけるのは時期尚早だ。
 

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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