シャープが鴻海との交渉に「失敗」した理由 リーダーはタフであれ、先に逃げたら負けだ

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企業再生案件では、売却する時の相手は、そういう人たちばかりです。ハゲタカっぽい人もいれば、ユダヤ人もいれば、インド人もいる。厳しい交渉になる。

チキンレースで妥結を急いだら…

日本の平均的ないい人というのは、基本的に平和が好きです。「和を以て貴しとなす」人たちです。そうすると、戦争状態をいかに早く終わらせるか、ということが目的化してしまう。早く妥結してしまわないと気が楽にならないのです。だから、妥結を急ぐ。

しかし、だいたい交渉というのは、最後は必ずチキンレースになります。どこまで我慢できるのか、なのです。チキンレースで勝つのは常に決まっていて、最後の最後までアクセルを踏んでいる人間です。その我慢ができるかどうか。

シャープのケースでいえば、手を挙げたのは、産業革新機構とテリー・ゴウでした。ずっと両方との交渉を走らせていました。2社以上を競わせる時、シャープが何を恐れるかというと、両方ともが降りてしまうことです。それで、シャープはテリー・ゴウを選んだ。すると産業革新機構は、粘ることもなくあっさりと降りてしまいました。

ここでシャープは、ひとつ大事なやるべきことが抜けていました。産業革新機構が降りる前に、テリー・ゴウに対して、完全に法律的に拘束できる契約書を突きつけておくことです。そうすることで、イエスかノーかの交渉にできた。ところが、それをしなかった。口約束で数千億円なんて、甘いのです。シャープにとって最悪のケースです。

かつての私の産業再生機構COO時代、41件の支援先は3年以内に売却しなければなりませんでした。売却交渉はすべて最後まで複数の買い手を競わせ、法的拘束力のある契約内容に対して「イエスかノーか」で誰に売却するかを決める交渉スタイルでした。

契約書はできあがっていて、金額だけ空欄になっている。入札社に金額を入れてサインしてもらう。「高いほうに売りますから」と。それだけです。もうこれ以上ネゴシエーションの余地はない、と伝えていました。

「そんな一方的なやり方をするならわれわれは降りる」と脅してくるところもありますが、本当に買いたいときには絶対に降りません。だから、ちゃんと書いてくれる。それで、例えば、思っていた値段に到達しなければ、入札社に「はい、今回はもう売りません」と伝える。「でも明日、もう1日だけチャンスをあげます」と添えて。

そうすると、ひと晩で15%も買値が上がったりする。交渉の担当者は取締役会からバッファーをもらっていて、まずその一番下の金額を出してくるに決まっているからです。いわばチキンレースです。チキンレースは先にビビったほうの負け。交渉のストレスから逃げたくなったほうの負けです。

これが交渉です。徹底的な戦いになるのです。実際、ユダヤ人やインド人だと、交渉の場で口汚くののしってきたりします。もちろん、こちらも応戦します。しかし、部屋を出たらケロリとして「飲みに行く?」となる。その後、親しい友人になることも少なくありません。

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