「契約理論」はわれわれの身近で役立っている

2016年ノーベル経済学賞2人の重要な業績

たとえば、毎月売り上げ目標が設定されてクリアすれば多額のボーナスが支払われるような報酬制度では、売り上げ推移に応じて販売員の販売努力は変わる。目標を達成してしまえば売り上げを伸ばそうとする意欲はなくなるし、目標を達成できそうになければ今月は手を抜いて翌月以降の売り上げにまわそうとするだろう。

しかし、売り上げのうち決まった割合を支払う歩合給の場合には、販売員は常に一定の販売努力を継続するインセンティブを与えられる。販売員が販売努力を細かく調整できる状況では、このようなシンプルな報酬制度が会社にとってもっとも好ましいものであることを、彼らの論文は理論的に示した。さらにこの論文はエージェンシー関係の理論分析を簡素化し、多様な応用分析を可能にした。

ノーベル財団による研究者向けの解説『OLIVER HART AND BENGT HOLMSTRÖM: CONTRACT THEORY』(The Committee for the Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel)もこのモデルに基づいている。

複数の仕事を行うマルチタスク問題にも解

ミルグロムとの1991年の論文『Multitask Principal-Agent Analyses:Incentive Contracts, Asset Ownership, and Job Design』  (The Journal of Law, Economics,&Organization,V7sp,1991, pp.24-52) は、1987年論文で得られた結果を利用して、業績に連動した報酬制度がもたらすインセンティブが逆に「強力すぎる」場合があることを示した。

販売員は売り上げを増加させようとする販売活動のみならず、製品に対する不平・不満などの情報を得る、アフターサービスを行うなど、顧客との良好な関係を築く活動にもかかわっている。このようにエージェントが複数の仕事・活動を行う場合には、単に「より高い努力を引き出す」という問題のみならず、複数の活動間に適切に努力を配分させるという問題が加わる。

この問題はマルチタスク問題と呼ばれる。後者の顧客維持活動を測る指標が利用可能でなければ、売り上げに強く依存した業績連動報酬によって販売員は顧客維持活動を犠牲にしてでも売り上げを伸ばそうと販売活動に邁進する。販売員が販売活動のみならず顧客維持活動も行うことを会社が望むならば、報酬が売り上げに依存する度合いを弱めなければならない。販売活動に対する適当な業績指標が利用可能であるにもかかわらず、業績に連動しない固定給がもっとも好ましくなる場合さえある。

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