「契約理論」はわれわれの身近で役立っている

2016年ノーベル経済学賞2人の重要な業績

今から34年前の1982年に東洋経済新報社が『内部組織の経済学』という書物を出版した。その第4章で、一方の人・会社等(プリンシパル、依頼人)が何らかの用務を他方の人・会社等(エージェント、代理人)に任せるというエージェンシー関係が分析されている。

たとえば会社がプリンシパル、会社の製品を販売する販売員がエージェントである。販売員の販売努力を常時観察することは困難なので、会社は販売員の売上数量・金額のような業績に依存した報酬制度によって、販売員のモラル・ハザードを防ぎ販売努力を引き出そうとする。しかし売り上げは販売員の仕事ぶりのみならず、単なる運不運、会社・製品の評判、景気、また製品によっては為替相場や天候などにも左右される不完全な業績指標である。このような状況ではどのような報酬制度が会社にとって好ましいだろうか。

ホルムストロームが業績評価の枠組みを確立

1970年代にはエージェンシー関係を分析するための理論枠組みは乱立していたが、1979年のホルムストロームの古典的論文『Moral Hazard and Observability』(Bengt Holmstrom,The Bell Journal of Economics,Vol. 10, No. 1,<Spring,1979>.pp74-91)が決定版となる枠組みを確立するとともに、どのような業績指標を用いるべきか、あるいは用いないほうがよいのか、を明確にする結果を導き出した。

販売員の売り上げが高いほど報酬が増えるのは、販売員が努力した可能性が高いからである。よって、販売員の努力をさらに正確に予想する助けとなる業績指標ならば追加で用いるべきである。

販売員の努力に左右される指標でなくてもよい。たとえば、販売地区が異なる別の販売員の売り上げは、有益な追加情報となりうる。売り上げを比較して相対的な業績を指標とすることで、販売員の努力とは無関係な会社全体に影響を与える要因(たとえば会社の評判)によって報酬が変動することを防ぐことができるからである。

ホルムストロームのその後の業績でとりわけ重要な2本の論文を紹介しよう。いずれもポール・ミルグロム教授との共著で、なぜ現実の契約がシンプルなものとなるのかを理論的に解明しようとすることに動機づけられた研究成果である。

1987年の論文『Aggregation and Linearity in the Provision of Intertemporal Incentives』(Bengt Holmstrom and Paul Milgrom,Econometrica,Vol. 55, No. 2 ,Mar.1987, pp. 303-328)は,会社にとってもっとも好ましい報酬制度が固定給プラス歩合給のような形態になることを導き出した。

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