時には、「父」のない子のように
憲法からパチンコまで、「成熟と喪失」の戦後日本文化史

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「大きなお友達」がリードする、日本の技術的熟練

阿部和重著『幼少の帝国 成熟を拒否する日本人』(新潮社、2012年)

代わりに同書が称揚するのは、登場人物の多重人格性や相互入れ替え性が前提とされるサブカルチャー的な想像力だが、作家の阿部和重氏の初のノンフィクションとして話題を呼んだ幼少の帝国 成熟を拒否する日本人もまた、「平成仮面ライダー」に言及する点で共通するのを見れば、「こども」の評価も変わってこよう。

阿部氏は美容整形のようなアンチエイジング技術の現場に取材し、日本人は成熟できないというより、むしろ積極的に成熟を「拒否」しているのではないか、との仮説を導く。

この着想のきっかけが、いまや父親世代までをも対象に展開されているバンダイ提供の「ニチアサ(日曜の朝)キッズタイム」で広告される、仮面ライダーやスーパー戦隊の極度にリアルな関連グッズだというのだ。

いつまでも童心でいるための玩具作りという目的ゆえにこそ、最も熟成された職人芸的技術が育まれてきたという、逆説がそこにある。

マッチョイズムの極致であるトラック野郎たちが、反面でこどもじみたド派手な装飾を愛車に施すデコトラ(デコレーショントラック)文化にも、阿部氏は「終わりなき青春」=成熟拒否の願望を見出す。

そして永遠に若く、こどもでいつづけようとする欲求が最高度の技術的熟練を導くという日本文化の構造が、大規模原発新設のような素朴な「強大化」の夢の破綻した現在、それとは異なる真の成熟社会をもたらすことに、希望をつないでいる。

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