三井物産に住友商事… 商社の「社内保育所」ブーム

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先駆者の日本郵船 定着には辛抱が必要

総合商社は、お世辞にも女性活用が進んでいる業界ではない。00年代まで各社とも女性総合職の採用は数人、部長級以上だと現在でもごく少数にとどまっている。会社側の問題ばかりではなく、「取引先に女性社員が行くと、ウチを軽んじていると苦情が来たこともある」(総合商社社長)。日本独特の業態である総合商社は、ある意味、女性活用が遅れた日本企業の典型例なのだ。

だが、取引先の意識も変わり、女性が活躍する機会も増えてきた。加えて、少子化で人材争奪戦も激化。従来の「新卒、男性、日本人」だけではやっていけない現実がある。


 
実際、87年に女性基幹職(総合職)の採用を始めた住友商事では、01年から女性の採用人数が増え、04年には基幹職100人中33人を女性が占めた。「10年育成して、出産・育児で辞められては、どうしようもない」(新森健之人事部長)のだ。


 04年以降、女性関連の人事施策を急速に充実させており、その延長線上の保育所設置。基幹職と事務職で利用に制限は設けない。新森部長は言う。「ともに貴重な戦力として働き続けてもらいたい」。

大手企業の社内保育所の先例に、日本郵船がある(02年4月開設)。

もともとは社内起業案として発案された。が、どう計算しても事業採算が合わない。そこで路線変更し、福利厚生の一環という位置づけになった。当初はマスコミも大々的に取り上げた。しかし、3年経っても月極め利用者はわずか1人。周辺の企業に利用を呼びかけたが、「あまりに早すぎたため、まったく取り合ってもらえなかった」(人事グループ育成チーム・抜山尚子氏)という。

その間保育所廃止の声が上がることはなかったが、利用低迷をいつまでも放置できない。何より遊ぶ相手がいない環境は子供にもマイナス。3年前に社員の親族やほかの企業へも開放、利用者が増え始めた。周辺からも契約する企業が現れた。今年3月末の利用者は15人の定員に近い13人まで拡大。この4月以降は8人の子供たちが通ってきている。

保育所の計画段階で、三井物産は日本郵船に見学に訪れており、こうした現実も承知していた。オープン前は「(保育所が)ある前提で(働くことを)考えるようになるには1~2年かかる。徐々に利用者が増えてくれれば」(多田取締役)というのが偽らざる心境だった。

それが、フタを開けてみれば月極め利用者は6人。8月末までにあと2人増える。定員15人のうち一時保育の枠も必要なので、月極めの定員は10人。「利用してもらえるか心配だった。うれしい悩みだが、希望者の優先順位をどうするか考えないと」と小菅室長は胸の内を明かす。

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