頼みは銀行とアップル。新生シャープを覆う霧 資金繰りと業績改善のメドはついたのか

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11年度、12年度と巨額の減損処理を行ったことで、液晶事業で一定の収益改善は見込める。とはいえ、付加価値ゾーンの強化、安定顧客との取引拡大により、液晶の売上高を3年間で2000億円増やすというシナリオは説得力に欠ける。

付加価値ゾーンとしては、低消費電力が売りの新型液晶「IGZO」の拡大を挙げるが、「どの程度の売り上げを見込むのかといった具体的なシナリオはない」(中空氏)。取引拡大も、この1年間言い続けてきたこと。「これまでも公約の不履行が続いたのに、今回新規顧客が増え、売り上げがこれだけ伸びますと言われても、簡単にはうなずけない」(みずほ証券の寺澤聡子シニアクレジットアナリスト)。

変わらぬアップル頼み

米・アップルからの資金提供を受けた三重の亀山第1工場。今年1月以降、稼働率が低迷し、収益の足かせとなっていたが、「5月からアイフォーンの次期モデル向けの製造が始まっている」(シャープ関係者)。

その隣、アイパッド用パネルを生産していた亀山第2工場。シャープのパネルが採用されていないアイパッドミニが発売された昨秋以降、生産がストップ。資本提携したサムスン電子向けのテレビ用パネル生産で稼働率は持ち直したが、安値受注で収益貢献は限定的といわれる。

今年後半の投入が予想されるアイパッドミニの次期モデル用パネルの受注に全力を挙げる。ただ、「まだ細かい仕様が決まっていないという話もあり、ふたを開けてみないと、どれだけ受注できるかはわからない」(アナリスト)。そもそも、12年度に納入量が急減し翻弄されたアップルに頼らざるをえない現実は変わらない。

サムスンとの取引拡大などにも期待をかけるが、中計では液晶関連の設備投資は大幅削減する方針が示されている。そうした中で競争力を保てるのか疑問は尽きない。

仮に中計が道半ばで終わった場合、「主力行としても十分に吟味して判断したはずで、すぐに資金回収に動くとは考えにくい」(アナリスト)と見る向きもあるが、事業売却、さらなる人員削減といったリストラが求められる可能性は高い。

「3年先、5~10年先。どんなに忙しくても、先を見据えた仕事をするのが信念」。そう語る高橋次期社長の行く末を濃い霧が覆っている。

※関連記事:シャープ奥田体制、歴史的危機下の1年間

(撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2013年5月25日

許斐 健太 『会社四季報 業界地図』 編集長

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このみ けんた / Kenta Konomi

慶応義塾大学卒業後、PHP研究所を経て東洋経済新報社に入社。電機業界担当記者や『業界地図』編集長を経て、『週刊東洋経済』副編集長として『「食える子」を育てる』『ライフ・シフト実践編』などを担当。2021年秋リリースの「業界地図デジタル」プロジェクトマネジャー、2022年秋より「業界地図」編集長を兼務。

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