習近平が危ない!「言論統制」がもたらすワナ メディアへの締め付けはいつか反動で爆発も

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たとえば『南方都市報』は、一面を真っ黒に塗りつぶして抵抗の意思を示したこともあったが、何回か宣伝部から目玉をくらい、ついには屈服させられた。雑誌『炎黄春秋』は、中国革命の元老の次世代、いわゆる「紅二代」に属する胡徳平(胡耀邦の子)、李鋭(毛沢東の秘書)らにより出版されてきた雑誌で、指導者におもねることなく比較的リベラルな言論で改革開放の推進を後押ししてきたが、これも2016年夏、編集長が交代させられ、以前のような質の高い記事は期待できなくなった。そのほか『共識網』『財経』なども同様の運命をたどっている。

あまりに激しい言論統制の強化には公的メディアからも疑問が噴出。新華社の周方(ペンネーム)は2016年3月、「宣伝部門は違法な行為で世論に誤った知識を植え付けている。改革開放の深化を妨げ、党と政府を損ない、中華民族の長期的利益を損なっている」などと批判した。また人民日報傘下で『環球時報』の胡錫進編集長は、「中国はもっと言論を自由にし、建設的な意見を受け入れるべきだ」などと発言したが、いずれもすぐに削除された。

習近平政権の言論統制強化は、爆発しないように外側を鉄線で何重にも巻き付けた樽の中で、鞭を振るっているようなものだ。樽が壊れない限り、政権にとって都合の悪い言論を排除する効果は上がっているのだろうが、それだけで事は済むか。樽が爆発する危険は、鞭が強くなればなるほど高まる。

日本など諸外国も看過できない

もっとも、中国は日本の十倍の人口を持つ巨大な国であり、その懐は深い。普通の民主主義国家ではありえないことでも、中国では起こりうるし、中国独特の道がありうる。現時点では両方の可能性を考えておくのが必要だが、その前提で若干指摘しておきたい。

第一に、あまりに激しい言論統制は真実を国民から隠してしまい、その結果、国民は政府の発表することを信用しなくなる。中国で腐敗現象が絶えないのは、中国の人たちが政府を信用せず、また自分たち自身をも信用しないことに大きな原因があるが、言論の強い統制は結局、そのような不信感を助長するのではないか。

第二に、習近平以下、中国の指導者がそこまで言論統制を強化するのは、民主化運動を警戒し、その芽が出そうになると早期に摘み取ってしまうためである。つまり共産党による独裁体制の維持が理由だと思う。外から見れば、すでに世界第二の経済大国となり、各国との間で相互依存関係ができあがっている中国としてそんな心配をする必要がどこにあるか分からないが、中国の内と外では大きな認識のギャップがあるのだろう。

第三に、そのように脆弱な体質を持つ中国は、対外面ではことさらに強い姿勢を取る危険がある。直接的な関連ではないかもしれないが、中国における言論統制の強化は、我が国を始め諸外国にとっても、看過できない問題をはらんでいると思われるのだ。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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