グーグルが実践する「大企業病」を防ぐ秘訣 同社人事を担い続けて17年の古参幹部が語る

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――社内文化を維持するには人材の採用もカギになると思う。採用で重視していることは。

文化にあった人材であることは、それぞれの職種に必要なスキルを持つ人材であることよりも重要だと考えている。採用過程では4つのポイントを見ている。役割に応じたスキル、意思決定やデータ分析などに必要な批判的思考、リーダーシップ、そして何より重要なのが文化への適合だ。役職に固執せず、正しいことを行い、広い視野で考えてほしい。

グーグルの特徴は「採用委員会(Hiring Committee)」を設置していること。さまざまな職種の担当者が集まり、面接をする。財務部門の面接であっても、営業や法務、広報といった部門からもインタビュアーが集まる。各部門の管理職がやりたいように採用をしてしまうと、たとえばその人が以前いた会社から5人引き抜くといったような事態になる。それは社内文化に混乱を招くので避けなければならない。

"グーグルらしい"のは話して面白い人

――応募してきた人材が文化に適合しているかどうかは、どのように判断しているのか。

その人の行動特性や柔軟性を見ている。たとえば「新たに会社を起こしたり、プロジェクトを始めたが、すぐに方向転換をしなければならなくなった。あなたはどのように対応する?」といった質問をしたり、「あなたがこれまで考えたクレイジーで壮大なアイデアは何?」といったことを尋ねたりする。チームワークやコラボレーションについての考え方も聞く。

特別な能力を持っている必要はない。カリスマである必要もない。ただ話していて面白い人と一緒に働きたいと思う。われわれはただ生きるために働くような人を採用したいとは思わない。チームメイトとの会話で面白い視点を提供してほしい。思い思いの方法で、他人にインスピレーションを与えるような人に、仲間になってもらっている。

ステイシー・サリバン(Stacy Sullivan)/グーグルでチーフ・カルチャー・オフィサー、持株会社アルファベットで人事担当副社長を務める。カリフォルニア大学バークレー校(心理学)を卒業後、シリコン・グラフィクス社を経て、1999年グーグル入社。一貫して人事・採用業務に携わる(撮影:尾形文繁)

――近年は多くのテクノロジー企業を買収しているが、買収先との文化的な融合にはどのような課題があるか。

過去何年にもわたって、ネスト(サーモスタットの開発)やディープマインド(人工知能の開発)といった大型買収を行ってきた。彼らに伝えているのは、われわれの企業理念の核となる部分は共有してほしいということ。その点は妥協しない。大きく考え、悪者にならず、正しいことを行う。そして敬意を持って社員に接し、ユーザーにフォーカスし、仕事を楽しむといったことだ。

それ以外の部分では、文化の違いを尊重したい。各社それぞれの文化も育んでほしいと思っている。たとえばネストはアップル出身者が多いため、アップル色が強い。最終的にはグーグルの文化とのよいブレンドになればいい。

――一方で、人材の流出を防ぐのも簡単ではなさそうだ。

多くの会社と同様に、われわれにも課題はある。採用するときも競争は激しい。特に小さい職場を好むような人は、より起業家精神を感じられるスタートアップに行きたがるため、難しくなる。ただXやネスト、ディープマインドといった、グーグル本体とは別のグループであれば、自分がより事業に貢献できていると感じやすいだろう。

最近の情報を見ると、グーグルからスタートアップへと移っていった人よりも、スタートアップからグーグルに移ってきた人のほうが多い。人材の維持は今のところうまくいっている。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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