北朝鮮を突き動かす、国内の“脆弱性” ダニエル・スナイダー氏に聞く(上)

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したがって、北朝鮮の人々には、韓国と比較した場合の自国の状況について、現実がある程度は見えている。そればかりか、中国と比べた場合の状況についてもわかっている。自分たちが、実際にはいかに貧しい状況に置かれているか、本来はどんな状況が期待できるはずなのか、わかっている。

かといって、体制に対する忠誠心が薄いわけではない。国民は潜在的には変革を促す力となりうる、ということだ。

北朝鮮の体制は現在、2つの目標を掲げている。経済を発展させることと、核兵器保有国としてステータスを高めることだ。ある意味では、この2つの目標は相矛盾する。なぜなら、北朝鮮が使える資源は極めて乏しく、その乏しい資源を軍部と経済の民生部門が取り合っているからだ。

北朝鮮国内の変化を待つしかない

しかし北朝鮮の体制は、これをうまく整合させようとしている。一方で、体制は、国民の支持を維持し続けるためのプロパガンダの手段として、強国になることに成功したと強弁して、これを活用する必要がある。それと同時に、体制は、国民に何らかの現実的な経済的利益を与える必要があると認識している。

ダニエル・スナイダー
スタンフォード大学アジア太平洋研究センター副所長
専門はアジアにおける米国の外交・安保政 策、日本と韓国の外交政策。コロンビア大学卒(東アジア史専攻)、ハーバード大学ケネディ行政大学院修士。クリスチャン・サイエンス・モニター紙のインド 特派員、東京特派員、モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者、コラムニストを経て、現職。日本、中国、韓国、台湾、米国の歴史教科 書を徹底比較した「分断された記憶と和解」プロジェクトを担当する

まさにこのような事情を背景に、私たちが最近目にしているような北朝鮮の対外的行動が生まれている。このような行動は、国民を動員し続け、ナショナリズムと愛国心の旗の下にまとめるという目的にかなう。そのおかげで体制は、国民を厳しく統制することができ、緊張を高めて圧力をかけるという戦術を使って外国から譲歩を、とりわけ経済支援、投資、貿易という形の譲歩を引き出すことができる。

北朝鮮の最近の行動には、一貫性がみられる。背後にあって北朝鮮の行動を突き動かしている要因は、北朝鮮という国家そのものの脆弱性だ。北朝鮮の行動は、弱い政府によくみられる行動だ。ただしそれは、危険性が低いことを意味するものではない。ある意味では、危険性は高いとも言える。しかし北朝鮮の行動が、自信に満ちた政府の取る行動でないのは確かだ。

北朝鮮の脆弱性を理解することにより、北朝鮮問題を解決する糸口をつかむことができる。問題解決のカギは、北朝鮮国内で生じている変化にある。6カ国協議や2国間協議を再開することで外交的解決を図ろうとしても、解決のカギとはならない。協議を開催すべきではない、と主張しているのではない。ただ、これら協議が北朝鮮の非核化につながる可能性はかなり低い、という点は知っておく必要がある。北朝鮮の国内に変化が生じるのを待つしかない。

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