信販・カード業界を直撃する新たな総量規制の「中身」

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またもや条件が変わる?中小クラスは苦悩濃厚

戦略は描いたものの、緒についたばかり--。

メガバンクを中核に据えた世界でも、こういわざるをえないところに、突然、直面したのが割賦販売法改正案の衝撃波だった。

その衝撃は全国各地に存在している地方型の信販・クレジットカード会社にも瞬く間に伝わっている。しかし、それだけではない。割賦販売法改正以前の状況下でも、経営問題が発生したからだ。

「沖縄の信販会社がついに金融支援の要請に動いている」--4月上旬、こんな情報が金融業界を駆け巡った。中でも、地方銀行は敏感だった。なぜか。地方型の信販・クレジットカード会社のメインバンクはその地域の地銀が担っているケースがほとんどだからだ。ご多分に漏れずメイン先の信販・クレジットカード会社もカードローンやキャッシングで収益を稼いできていた。したがって、改正貸金業法などによる生存条件の変更はここでも避けられなかった。

「いずれ、経営支援の必要性も出てくるだろうとは思っていた」-- こう話す中堅地銀の幹部は、ほかの地方で懸念が顕在化したことに顔色を曇らせている。

各地の地元信販・クレジットカード会社の社歴は古い。通常、これは高い評価を受けることだが、過払い利息返還問題に限ると、その分だけさかのぼって返還請求を受けるリスクが高くなる。実際、同返還問題は各地の地場会社を苦しめている。したがって、覚悟はしていたが、問題の表面化はやはり、ショックだった。

しかも、「経営支援ということになれば、ビジネスの抜本的改革を迫らねばならない」とも考えていた矢先に、別の情報が入っていた。割賦販売法改正案の内容にほかならない。

「覚悟していたものだけではなく、予想もしていなかったニュースも入った」

上位地銀の企画担当者も天を仰ぐようなムードにある。現在、地方型の地銀は、都心との経済格差の拡大に伴って地元経済の悪化が歴然とする中で、次第に増えてきた不良債権額にしびれてきている。そこに、今まで漠然としていた「金融支援」の文字がくっきりと浮かび始めたといえる。暗さが増すのは当然だ。

「結局、広域合併などによる経営効率化によって、厳しい経営環境をしのいでいくことを提案するしかないだろう」--中堅地銀の経営者は思案顔でこう語る。地元経済に影響力が大きいだけに、経営破綻は是が非でも避けたい。しかし、割賦販売法で総量規制導入となれば、本業縮小によるダメージは大きい。支援ビジョンも描きにくくなるという。

同じころ、東京では大手の信販・クレジットカード会社は驚きが冷めて、あぜんとする状況にあった。

「経済産業省は『決して悪いようにはしないから』といっているが、法改正のために経済産業省が設置した委員会の議論では、そんな総量規制のような話はなかった」

ある大手クレジットカード会社の幹部は、突然降って湧いたかような「包括支払見込額」制度に困惑している。クレジットカード会社だけではない。グループ内で信販・クレジットカードビジネスの再構築に向かっているメガバンクも「どうなっているのか」と声を荒げている。

仮に、消費者ローンと同様の総量規制導入となれば、キャッシングを抑制して、代わってカードショッピング、それもショッピングリボルビングの促進によって、収益力の低下を補っていくという次の算段も水泡に帰しかねない。

同改正法案では、自主規制団体の創設も盛り込まれている。この点、現存するクレジット産業協会との関係はどうなっていくのかという問題もある。今、信販・クレジットカード業界は、大手クラスから各地の地方会社まで混乱の極みにあるのが現実といえる。

そうした混乱の中で、現在、経済産業省の幹部が大手各社を訪問して同改正法案の内容を説明し理解を求めているという。しかし、業界側の反応は複雑だ。今後、政省令の規定次第で、近未来は変わってくる。

結局、あいまいな制度運営の後に個人向け与信市場とそのビジネスの担い手に訪れたのは新たなカオスにすぎないのか。この金融分野に天地創造の場面はまだ遠いのかもしれない。

(浪川 攻 =金融ビジネス)

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