アップル、IBMで培った「1秒で瞬断する力」 山元賢治・元アップル・ジャパン社長に聞く

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──それは、日頃から鍛えていないとできませんね。

そのためには、圧倒的に情報を持っていること、それも「世界の情報」を持っていたい。その一番の象徴がインターネット。情報があふれているが、そこには「腐ったブドウ」や「渋柿」もいっぱいある。自分で情報を取捨選択する力がいる。日本人はインターネットの9割近くが日本語でのアクセス。中国人は7~8割が英語という。これはまずくはないか。

──当事者意識が希薄なのも問題と指摘しています。

レプリゼンタティブネス、つまり当事者意識をきちんと持ちたい。これは日本全体を復活させるにも必要だ。人のせいにする狭い価値観が横行しているが、それではダメだ。卑近な例がテレビのリモコンについてで、あれほどのボタンを誰が使うのか。ふたまで開けて使うと、物笑いの対象にしがちだが、そう作らせているのはわれわれ日本人なのだ。あたかもメーカーが悪いかのように言って溜飲を下げるが、買っている自分たちに当事者としての意識がないのは不思議だ。

去年9カ月にわたり毎月1週間ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国に行った。そこでのテレビの売れ筋は韓国製。たまに売れている日本の製品は確かにリモコンのボタンが少なく安い。日本人はサムスンやLGの製品の悪口を言うが、米国で今やいちばん売れているテレビはサムスンではない。ベンチャー企業のVIZIO製。誰かのせいで負けたというのではなく、自ら変化を促し、リーダーになろうとしている。被害者意識ではなく当事者意識を持って新たな地平を開かないと、日本の退潮には歯止めがかからない。

──「世界はそうでも日本はこうだと言い訳をしない」とも。

変化の速さを覚悟してすべて受け入れないといけない。地球上でたった一つの真実は、変化し続けていることだ。既得権にしがみついている人もやがて終幕を迎える。おカネを持っている人も墓場では使えない。テレビは20年でどれだけ変わったか。むしろ変化に注目することだ。ケータイにしてもものすごい勢いで変わっている。それだけビジネスチャンスを与えてくれている。自分だったらどんなケータイを作るのか。それを構想する。それが大事だ。

仕事を意識した教育がされず、遅めにスタートし、バイトして遊んでいて就職活動で苦しい、ととかくいわれるが、これはその子たちも悪いが社会も悪い。仕事を考えた教育をなぜしないのか、この問題放置も不思議だ。

(撮影:尾形文繁)

(週刊東洋経済2013年5月25日号)

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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