信販・カード業界を直撃する新たな総量規制の「中身」

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こんなことがあっていいのか--。

3月上旬、信販・クレジットカード業界には、怒りの声が上がっていた。3月7日に閣議決定された割賦販売法改正案の中に、予想だにしなかった「総量規制」とおぼしき条項が盛り込まれていたからだ。

同法改正案では、年収、貯蓄など数多くのチェックポイントを調査して利用者の支払可能額を算定する「包括支払見込額」制度が義務づけられるような内容になっている。詳細は政省令で定められるというが、確かにこれだけでも総量規制のニュアンスが感じられる。

寝耳に水だった信販・クレジットカード業界は驚き、次の瞬間には恐怖に駆られた。キャッシングに続いて、本業部分にも総量規制が敷かれれば、収益上の大きな制約になることは間違いない。

変わる生存条件-生きるか、死ぬか

個人向け与信ビジネスはすでに混乱の中にある。もはや、その理由を説明するまでもないだろう。過去、本誌で触れてきたように、貸し手である金融業に与えられた“生存の条件”が変わってしまったからだ。

振り返ってみれば、消費者金融、信販・クレジットカードなどの当該業界は、利息制限法の上限金利を超える利息収入を「みなし利息」として認められるという、いわば、例外措置の継続を信じ切って生きてきた。しかし、残念ながら、カオスは永遠ではなかった。

カオスが消え、その後、眼前に広がったのは肥沃な大地とは程遠い世界だった。風は吹き荒れているだけで上昇気流には一向に変化しない。荒れ野に立って聞こえてくるのは重大な岐路を指し示し、決断を促す呼び声ばかりだ。

中小業者には「廃業か否か」を迫り、大手クラスには「銀行傘下に入るか否か」を問いかけている。

苦境に陥るに伴って、市場メカニズムという冷徹な見えざる手も動き始めた。「収益力の脆弱化→信用力の低下→資金調達の悪化」というパスが間接金融、直接金融の両面から襲ってきている。過払い利息返還請求の増大と、それに付随する貸付元本の放棄がその循環速度を加速させ続ける。

前提が狂っても再編は止まらず

中堅消費者金融会社のクレディアやアエルなど、事態の悪化速度にリストラなどのコスト削減が追いつかないような企業は絶命した。消費者金融業界はいまだにその波間を漂っている。さまよえる業界に終着点はみえてこない。「苦難の峠を越えた」という声は希望がにじんでいても、客観性を伴っていない。

消費者金融、そして信販・クレジットカード業界の再編によるリテールバンキング構築を推し進めてきた大手銀行の担当者はこうつぶやく。 

「こんなはずではなかった」

銀行業の教科書の多くは、商業銀行のビジネス展開として「経済の成熟化が進展するにしたがって、コーポレートバンキングの収益性悪化をリテールバンキングの収益がカバーしていくことになる」と唱えてきた。

大手邦銀はこぞって「シティバンクのように」とばかりに、リテールバンキングの強化に走った。それから十数年。今、企画担当者がうめき出さざるをえない言葉がこれである。

それでも、戦線は拡大中だ。戦略に修正の余地はあっても、リテール戦略の根本が覆されたわけではないからだ。現に、メガバンクを中心にして、信販、クレジットカード業界の再編成が進んでいる。

みずほフィナンシャルグループがクレディセゾンなどとの緩やかな連携という独自路線にある一方で、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)はそれぞれ、傘下企業群の再編成に着手した。

MUFGは、三菱UFJニコスをリテール中核企業と位置づけたうえで、旧日本信販の個品割賦事業をジャックスに譲渡。さらにジャックスに20%の出資を行って、同社を持ち分法対象会社化した。三菱UFJニコスはクレジットカード事業を集約化させて、今年10月にも株式交換によって完全子会社化される。

メガの戦略は三者三様、勝負はコスト競争力

それに対して、SMFGはグループに中間持ち株会社を設立して、その下にオーエムシーカード、セントラルファイナンス、クォークを配置。3社を合併するというデッサンを描き出した。「中間持ち株会社による合併会社への持ち株比率は将来40%にする」(奥正之・三井住友銀行頭取)計画だ。さらに、同グループは直系のクレジットカード会社、三井住友カードを従来どおりの位置づけにするものの、合併会社と同社との連携は進化させていく。


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