世界で進む農薬メガ再編、日系はどう戦う? 国内最大手、住友化学の事業トップに聞く

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――海外メジャーは必ずしもライバルではない?

もちろんライバルではあるが、同時にまた当社製品の普及を広めてくれるパートナーでもあるということ。この点が農薬ビジネスの特殊な部分だ。モンサントとは提携関係を拡大し、同社が新たに開発する大豆、トウモロコシなどのGMOに対応した除草剤を2020年代前半をメドに開発する。

こうした提携戦略はいわゆるコバンザメ商法だが、メジャーが世界中で販売・推奨してくれるわけで、当社にとってメリットは大きい。自社での販売を基本としつつ、メジャーと組めるところは組んで実利をとっていく。もちろん、彼らが欲しがるような独自商品を当社が持ってることが大前提で、その意味でも開発力が大事になる。

――微生物殺虫剤など、化学農薬とは違った生物農薬分野にも力を入れている。

天然由来の生物農薬分野の育成にも力を入れる。写真は米国の研究開発拠点

2000年に米国企業を買収し、天然の微生物由来の物質を利用した微生物殺虫剤や、果樹の実を大きくしたりする植物成長調整剤の育成に取り組んできた。一昨年には、菌根菌を扱う米国オレゴンの会社も買収した。菌根菌は土壌中に生息する有用微生物の一種で、植物による土中での水分・養分の効率的な吸収を促す働きがある。

こうした生物農薬はまだまだニッチな領域だが、環境ストレスが少なく、需要は着実に伸びている。当社はこの分野で世界の先頭集団を走っていると自負しており、独自性のある事業として将来の大きな柱に育てたい。当面の目標としては、2020年に売上高400億円以上を目指している。

10年後には6000億円も可能

「独自の戦略により、海外メジャーと棲み分けながら農薬事業を成長させる」と語る住友化学の西本麗・専務取締役(撮影:今井康一)

――再編するメジャーが独禁法をクリアするため、一部事業を売却する可能性も指摘されている。売り物が出てきたら、住友化学は買い手として手を挙げるか。

収益性や当社製品との補完性などをよく吟味したうえで、取得に必要な金額を総合的に考えて判断する。いい案件なら買いたい気持ちは当然あるが、出せる金額には制約がある。数百億円なら可能性ありだが、金額が4ケタ(1000億円以上)いくと、ハードルはかなり高くなる。

――年間数百億円の利益を稼ぐ農薬事業は住友化学の収益柱であると同時に、会社の成長を牽引するドライバーとしても期待されている。長期的に見て、どのくらいの成長余地があると考えるか。

10年後に売上高で今の約3倍、具体的には6000億円ぐらいにまで成長できるだけのポテンシャルはあると思う。ただし、何か一つの戦略でそこまで伸ばすのは無理。申し挙げたような、いろいろな戦略の組み合わせが必要だ。規模も体力もまるで違うのだから、海外のメジャーと同じ土俵で戦っても勝ち目はない。小さいなりに知恵を絞り、いろんな戦略の組み合わせでメジャーとうまく棲み分けながら事業を伸ばしていく。

渡辺 清治 東洋経済 記者
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