日米の「割高な株価」が維持できなくなる時 市場は問題を見て見ぬふりをしているだけ

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では米大統領選挙についてはどうだろうか。筆者は討論会を見て何かを判断することはないのだが、マスコミの論調を見る限り、民主党候補のクリントン氏を勝たせたいような報道が多いように思われる。そのほうが、市場の混乱は避けられるとでも考えているのだろう。

ただ最終的には投票結果を見るしかないのであり、今の時点であれこれ考えても仕方がない。ただし、わかりやすく言えば、トランプ氏が結果として大統領選に勝利すれば、株価は大きく調整しそうだということである。

まさかのトランプ選出で、むしろドル高円安の可能性も

もっとも、トランプ氏が選出された場合に、翌年以降の金融市場がどのような状況になるかは別物で、わからない。トランプ氏が示している税制改革などを考慮すれば、むしろドル高になるようにも思われる。トランプ氏が2005年のように、還流資金の税制を大幅に引き下げるようであれば、ドル買い需要が高まり、それがドル高・円安を誘発するとの考えである。

そうなれば、日本にとっては円安になる可能性が高まり、むしろトランプ氏を歓迎すべきなのかもしれない。ただし、その場合にはドル高が米国企業を圧迫し、株価には逆風となろう。逆にクリントン氏はドル安を志向しているとの見方が多いようであり、クリントン氏が大統領に選出された場合には円高につながるリスクがある。これは、日本からすれば全く歓迎されないだろう。

こうして見てきたように「ドイツ銀行」と「米大統領選」という、市場の関心が高いこの二つの材料をとってみても、金融市場が安定的に推移するのは望みづらい。

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今の市場は様々な背景や理由が複雑に絡み合っており、一つのロジックで明快にすべてを説明することが困難だ。それでも明白なことは、日米ともに株価が割高な状態にあることである。特に米国株は歴史的割高圏にあることは、「CAPEレシオ」(景気循環の影響を調整した株価の割高・割安を見ることができるとされる指標。25を超えると割高とされるが、米国のS&P500では25超で推移)などでも確認できる。

そのため、1929年の世界恐慌、2000年のITバブル崩壊、2007年以降のサブプライムローン問題深刻化のときのような大幅な株価調整になっても、驚いてはいけない。これらの客観データが株価調整の可能性を示している一方、米国がドイツ銀行に対してどのような対応をするかによっても、当面の結末は変わってきそうだ。

それにしても、現在の日米の株価水準はいつまで維持されるのだろうか。筆者が当面の「Xデー」とした今週末までに何かが起きるのか、残された時間はあまりないが、じっくりと市場動向を見ていきたいと考えている。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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