まずは自己啓発本を捨てよう ”戦う哲学者”中島義道氏に聞く(下)

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「便所飯」は何を表しているのか

――日本は高校までは強制的に集団生活ですが、大学は比較的自由です。それに慣れて、会社に入るとまた大変です。

中島 義道(なかじま・よしみち)
電気通信大学元教授・哲学塾カント主宰 1946年福岡県生まれ。77年東京大学大学院人文科学研究科哲学専攻修士課程修了。83年ウィーン大学基礎総合学部哲学科修了、哲学博士。専門は時間論、自我論。2009年電気通信大学電気通信学部人間コミュニケーション学科教授を退官。現在は「哲学塾 カント」を主宰し、延べ650人が参加した。著書は『働くことがイヤな人のための本』『私の嫌いな10の人びと』『人生に生きる価値はない』(以上、新潮文庫)など約60冊を数える。

大学はそうですね。でも、大学でもトイレで食事をする学生がいると聞きますが、ああなっちゃうのは困りますね。その背後には、やっぱりみんな一緒という雰囲気があると思います。口では「みんな違って、みんないい」と言いますが、実はこんなことは全然教えていない。日本人は集団性をものすごく尊びますが、もうあんまり実情と合わなくなってきている感じがします。

私の息子はウィーンで5年間暮らしたのですが、まず日本人学校にやったんです。うちの子は変な子だから、そこにうまく適応できなかった。先生が「ボランティア活動をしましょう」と命令すると、うちの子は「ボランティア(自由意志)だからしなくていいでしょ」と言って怒られる。スクールバスに乗らないと怒られる。ほかの子どもと一緒に食堂で食べないといけないし、サッカーの練習も1人でやってはいけない。

それで、半年後に生徒が70カ国くらいから来ているアメリカン・インターナショナル・スクールに転校させました。そこでも息子は同じことをしたんですよ。うちの子がパンを買ってどこかで一人で食べていても、先生たちは「なんでそれが問題なのですか?」と言うんですね。食事は食堂で食べてもいいし、弁当を持ってきてもいいし、食べなくてもいい。スクールバスに乗らなくてもかまわない。遠足にも行かなくてもいいんです。

選択肢がすごくあるから救われるんです。言いかえれば、多様性です。極端に言えば、「もう学校なんかなくなっていい」という意見もある。1日6時間も子どもたちを檻に入れるなんて、おかしいじゃないですか。高齢者介護のように、自宅に教師を派遣したっていいじゃないですか。

――今の若者は社会になじめないのか、仕事もすぐ辞めるし、弱いと言われます。

昔の人は体罰もあったし、皆から罵倒されたり、お互いけんかしたり、差別発言もいっぱいあったりする中で生きてきました。荒っぽかったけれども、誰もが若いときから、世の中は不合理で理不尽であることを学んでいました。どんなに勉強がしたくても、「ダメだ! 高校を出て働け!」と親から言われたり、「長男は東京に出ちゃいけない」と命令されたり。私のように、巧みに親をだましながら好きなことをやってきた人もいますが、大多数はあきらめました。社会と大人の圧力によって、虐げられていたのです。それは人類始まって以来、ごく普通のことなのですけれどね。

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