安倍政権が描く、「医療・介護改革」の姿 守れるか社会保障制度 見えた医療改革の方向性

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では、どうするか。もちろん、現状維持では問題は改善しない。そのうえ、医療費は高齢化によって自然と増え続ける。そこで、あえて公費を追加投入することで、必要な医療・介護を確保し問題解決を図ることが08年の国民会議で検討され、それに必要な財源も消費税率換算で試算された。「税と社会保障の一体改革」は、これと呼応する形で行われたものであり、増税が決まった今、残された社会保障サイドの具体的な改革策を用意することが求められているわけである。

今年1月に提示された財務省の審議会報告書は、そうした経緯が表現されている。「急性期病床への医療資源の集中投入等により『高密度医療』を実現し、平均在院日数の減少等を通じて医療費の適正化につなげるという政策パッケージのためにあえて行う公費負担であり、その政策効果の発現には、診療報酬の重点配分を図るといったソフトな動機付けだけでは不十分なことは明らかである」。つまり「今回の会議は財源をどう使うかが焦点。長い議論を踏まえると、選択肢は限られている」(委員の権丈善一・慶応大学教授)。

増税財源の使い道を議論

こうした流れで提示された案が、補助金を用いて自治体や病院などに医療・介護の自発的な再編を促すスキームだ。増税財源の一部を使って基金を創設。医療・介護資源の再配分に向けてシンクタンク機能を担う専門チームを国に組織し、本気で改革に取り組む意志のある自治体を資金と知恵の両面で支援する。

さらに、医療法を改正し、医療機関の指定・取り消し権限を与えるなど都道府県の役割を拡大。医療法人の統合を促すための仕組みとして持ち株会社制の導入や、高齢者住宅の整備に向けた資金調達手段としてのヘルスケアREIT(不動産投資信託)など、各種の規制改革策も組み合わせて改革を促す方向だ。

国民会議の期限は8月21日。政府にも、その日までに「必要な法制上の措置」を講じることが法で義務づけられている。最終報告には、総報酬割の全面導入のように大企業が反発しかねない政策も盛り込まれる見通しだ。経済界の反発をはねのけ、政治的な決断を下せるか。今後はそこも焦点になってくるだろう。

週刊東洋経済2013年5月18日

長谷川 高宏 東洋経済 記者
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