「36協定」と「働き方改革」の議論は切り離せ 命を守ることと社会の活性化は別次元だ

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その意味では、「働き方改革実現会議」で「36協定」を話題にすることは、労働基準法の趣旨をあいまいにし、経済活性化や少子化回避への過度な期待を抱かせるという2つの意味で「悪手」であるとさえ言える。「話題づくり」にはいいかもしれないが、それがかえって混乱を招くのであれば本末転倒だ。

私たちは何時間働きたいのか?

くり返す。労働基準法は労働者を保護することが目的である。「ニッポン一億総活躍プラン」は社会を活性化することが目的である。同じ「長時間労働の是正」という課題を抱えていても、目指すべきゴールの次元が違う。

労働者の命や健康や人権を守るという意味で、労働基準法の「36協定」の見直しは急務である。「ニッポン一億総活躍プラン」に関係なく、「働き方改革実現会議」の議論を待つことなく、本来は厚労省が主導するのが望ましいことであろう。

一方で、「働き方改革実現会議」においては、1日の労働時間を何時間以内に抑えれば、夫婦がともに外で働き、家事や育児も回せる社会になるのか、どうやってそれを実現すればいいのかを議論してほしい。何が理想で妥当で現実的なのかをじっくり議論する必要がある。これは、そう簡単にまとまる話ではない。

「働き方改革実現会議」はきっときっかけにすぎず、働き方や暮らし方については今後も継続的な議論が求められることになるだろう。私たち国民も「1日何時間働き、どれくらいの時間を家族と過ごし、どれくらいの時間休息したいのか」をイメージし、議論に参加しなければならない。私たちのライフスタイルは、私たちが決めることなのだから。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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