政府の危険な拡張財政に手を貸す日銀 財政政策のしもべになった金融政策

✎ 1〜 ✎ 25 ✎ 26 ✎ 27 ✎ 最新
拡大
縮小

黒田東彦(はるひこ)日本銀行総裁は、新しい金融緩和策に関する記者会見で、「年間国債発行額の7割も日銀が買うのは、池の中の鯨ではないか」との質問に対して、「フローでは大きなシェアだが、国債ストックに対してはたいしたものではない」といった主旨の回答をした。ここにはいくつかの論点が含まれている。

まず、フローとストックの区別がある。確かに「年間発行額の7割」というのはフロー概念であり、「国債残高」はストックだ。これらを混同してはならない。しかし、論ずべきことはこれだけではない。重要なのは、次の2点だ。

第一は、「今回の措置のストックに対するウエイトは、本当に小さいのか?」という問題である。

実は、決して小さくない。日銀は今後2年間で銀行から100兆円の長期国債を買う。国内銀行の現在の長期国債保有残高は114兆円だ。もし買い入れを前倒しして2年分をいますぐ買い入れてしまえば、銀行の国債はほぼゼロになる。それほど大規模なものである。

もちろん、一挙には買わないし、銀行は新発国債を買う。しかし、今後2年間の長期国債の発行額を過去2年間と同額(82・7兆円)と考え、現在の保有残高比から見てその15%程度を国内銀行が買うと考えれば、国内銀行の保有国債残高は87兆円ほど減る。つまり、ストックに対しても大きな影響を与える政策なのだ。これは、まさしく「池の中の大きな鯨」である。

第二は、「ストックに与える影響は小さいほうがよいのか?」という問題である。小さくては意味がないのだ。なぜなら、ストックに影響を与えることが、そもそも金融政策の目的だからである。

金融政策とは、「マネーストック」(経済全体の「おカネ」の量)に影響を与えようとする政策である。そのために、「マネタリーベース」(日銀券と日銀当座預金)を操作し、いわば「テコの原理」によって、マネーストックを動かそうとする。マネタリーベースを動かす手段が日銀による国債購入であり、これによって、銀行が保有する国債を日銀当座預金に変えるのである。

マネーストック、マネタリーベース、銀行保有国債残高は、いずれもストック変数である。「大胆な金融緩和政策」とは、これらストック変数に有意な影響を与えようとするものだ。事実、今回の政策はマネタリーベースを現在の138兆円から2年後までに270兆円に増やすという政策であり、ストック面での大きな変更を目的としている。

次ページ量的緩和は、実体経済に影響しない
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT