近づくマイナス金利、ドラギ総裁も手詰まり? 景気・経済観測(欧州)

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こうした副作用の存在は、ECBも十分に認識している。それにもかかわらず、ドラギ総裁が5月の理事会でマイナスの預金金利にあえて前向きとも受け取れる発言をした狙いは何だったのだろうか。

”弾切れ”が近いことを市場に悟られるな!

今回の利下げを実施するに当たってECBが恐れたのは、マイナスの預金金利の実現へのハードルを上げてしまうことで、利下げ余地が乏しいとの印象を与え、ECBがもはや景気浮揚で有効な追加手段を持たないと市場参加者に受け止められることであったのではないだろうか。

利下げ後にコリドーは100bpsに縮小し、追加利下げを行うにはコリドーをさらに50bpsに縮小するか(上限金利が0.50%、主要政策金利が0.25%、下限金利がゼロ)、下限金利をマイナス(上限金利が0.75%、主要政策金利が0.25%、下限金利が▲0.25%)に引き下げる以外にない。これらはいづれもECBにとっては未開の領域だ。

一方、日本銀行、米連邦準備制度理事会(FRB)、英イングランド銀行(BOE)など他国の中銀のように、国債などの資産購入という形で量的緩和を行うことは、財政ファイナンスを禁じられているECBには難しい。追加緩和への市場参加者の期待をつなぎ止めるために、ドラギ総裁は今回マイナスの預金金利を排除しないトーンの発言をした可能性がある。

このあたりはドラギ総裁が持ち前の市場との対話能力を発揮し、“弾切れ”への不安を封じ込めることにひとまず成功したわけだ。問題は今後も景気低迷が続き、ECBが掲げる年後半の景気回復シナリオが崩れた場合に、実際にマイナスの預金金利という副作用を伴いかねない政策措置に踏み切ることが出来るかだ。

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