ニッポンの筆記具、「逆風下」で稼ぐ秘訣 パイロットと三菱鉛筆が過去最高益うかがう

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この動きが海外市場でも見られはじめている。筆記具の最大消費国の米国では、「ここ数年、日本の筆記具はふたたび拡大を見せている」(春田専務理事)。米国の貿易統計によると、00年以降は中国製品が拡大する一方で、日本の筆記具は漸減傾向だった。が、この3年間に至っては、日本製品が販売金額ベースでふたたび盛り返しているという。

世界的ヒットの原点はサインペン

そもそも日系メーカーは、高付加価値化を“必勝パターン”としてきた。

最初の例は、ちょうど50年前に誕生し、累計で21億本以上を販売してきた、ぺんてるのフェルトペン「サインペン」だ。サインペンは63年の発売当初は国内では見向きもされなかったが、当時の米国のジョンソン大統領に愛用されたことを機に全米で大ブームに。日本でも流行が逆輸入される形で人気商品となった。

それまで使用されていた油性のフェルトペンは、紙を裏に染みてしまう難点があった。また中綿にインクを浸透させて筆記させるものだが、ペン先が乾燥しやすく、長時間の筆記に耐えられなかった。中綿を固めるために使用される薬品、トルエンの独特な刺激臭も課題だった。裏に写らないよう油性を水性にしつつ、ペン先の乾燥を防ぎ、かつにおいを抑えるペン。その開発中には爆発事故などアクシデントも起こり、3年の時間を要したが、大ヒットにつながった。

サインペンに続き、油性に比べ書き味がなめらかな水性ボールペンも日本メーカーが発明、さらに80年代には液漏れがしづらくボテもできにくいゲルインキペンと、高付加価値ペンを矢継ぎ早に開発、市場を席巻していった。

こうした日系メーカーの高い開発力の原動力は、いったいどこにあるのか。太さ1ミリに満たない線を書くボールペンのペン先には、ミクロ単位の金属、樹脂の加工技術が必要だ。さらに多くの企業がそのミクロ設計のペン=精密機械を製造、組み立てる自社オリジナルの機械も開発している。「もっとも構造がシンプルといわれるマーキングペンなどでも、中綿の素材、密度、インクの成分など、長年の研究の積み重ねが不可欠」(春田専務理事)という。

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