南相馬の内部被曝検査、関心低下との戦い 混迷する福島・住民健康管理の取り組み

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責任不在の健康管理体制

いずれの検査も「安心感を与える」ことが主目的とされていることから、高い値が検出された「ハイリスク」の住民に適切な医学的指導を実施する体制も存在しない。だが、こうしたルーズなやり方を続けている限り、住民の不安解消にはつながらない。

現在のWBC検査について、坪倉医師は「平均値が低いことはすでに周知の事実。それでよしとしておくだけではダメだ」と語る。「今の時期に体系的な検査システムを構築しておかなければ、健康管理の取り組みを継続すること自体が難しくなる」(坪倉医師)。

折しも2月に発表された県民健康管理調査の結果では、3人の子どもが甲状腺がんと診断され、7人にその疑いがあるとされた。小児甲状腺がんは「通常、100万人に1人か2人見つかる程度」(鈴木眞一・福島県立医大教授、県民健康管理調査検討委員会委員)とされてきただけに、波紋が広がっている。国や県が対応を怠ったことで原発事故直後の被曝データが存在しないことや、さまざまな検査データが未統合であることなど、問題は山積している。

福島県は現在、県外に避難した住民に帰還を呼びかけているが、真の意味での安心につながる取り組みもないままでは、住民を呼び戻すことはできない。WBC検査への関心の低下が投げかけている問題は根が深い。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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