2017年、ヨーロッパは本当の正念場を迎える 独仏の選挙がもたらす「EU崩壊の危機」

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フランスの雇用情勢が一向に改善しないのは、前のサルコジ政権時に行政部門で雇用を拡大する政策が見事に失敗したにもかかわらず、オランド政権になっても同じことをやっているからでしょう。

そのような状況下で、2015年11月のパリに続いて、2016年7月にはニースで大規模なテロが起こり、極右政党である国民戦線への支持がいっそう広がっています。国民戦線の主張によれば、フランスが苦境に陥っている原因は、すべて国外からもたらされているといいます。だから、国民が痛みを伴わない方法で、フランスは再び偉大な国家に復活できるというのです。このような詭弁が多くの国民を惹きつけているのは、非常に憂慮すべきであると思われます。

国民戦線の描く偉大な国家復活への道筋は、ユーロ圏からの離脱から始まります。離脱に伴う混乱を回避するために、フランス銀行が積極的な金融緩和を行い、復活した通貨フランを安く誘導、輸出が伸びて景気が回復するといいます。

その一方で、債務危機以降続けてきた緊縮財政を取りやめ、最低賃金も引き上げるというのです。荒唐無稽な道筋であるのは少し考えただけでも一目瞭然なのですが、今の経済的な苦境から抜け出したい国民からすれば、とにかく既存の二大政党には失望しているというのが本音なのでしょう。米国の大統領選挙で起こっているトランプ現象と、非常に似通っているところがあるように思われます。

ルペン党首が次の仏大統領で欧州が大混乱に?

フランス大統領選挙の有力候補は、与党である社会党では、再選を目指すオランド大統領とマクロン前経済産業デジタル相の二人で、いずれかが社会党の候補者になる見通しです。野党である共和党では、サルコジ前大統領とジュペ元首相の二人を軸にして、候補者選びが進んでいるようです。そして、台風の目となる国民戦線では、マリーヌ・ルペン党首が候補者としてすでに決定しています。ルペン党首は前回の大統領選挙では泡沫候補と呼ばれていたほどなのですが、今では彼女は2回目の投票に進む最有力候補として見られているのです。

2017年4~5月の大統領選挙までに、フランス国内でまた大規模なテロが起こるようなことがあれば、反EU・反移民を掲げる国民戦線への支持がなおいっそう広がることになり、ルペン党首が次の大統領になる可能性が高まっていくでしょう。

さらには6月の国民議会選挙でも、国民戦線が議席を急激に伸ばすことによって、社会党と共和党による二大政党制を崩壊させる可能性も高まっていくでしょう。ドイツと協力して欧州統合を推進してきたフランスが、新しい大統領の誕生を機に反EU・反ユーロへと政策の大転換を行うようになれば、欧州の政治や経済が大混乱に陥ることは避けられないことになるのではないでしょうか。

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