39歳大学講師が結婚のために「捨てたもの」 村上春樹のような「いい返し」は要らない

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告白すると、筆者は会話で「いい返し」をするために頑張っていた時期がある。モテたいからだ。理想は、村上春樹の小説に出てくる主人公みたいにウィットに富んだクールな返しである。

<「一緒に死んでくれるの?」と緑は目をかがやかせて言った。
「まさか。危なくなったら僕は逃げるよ。死にたいんなら君が一人で死ねばいいさ」
「冷たいのね」
「昼飯をごちそうしてもらったくらいで一緒に死ぬわけにはいかないよ。夕食ならともかくさ」>
(『ノルウェイの森』より)

しかし、頑張ってもいい返しをできるようにはならなかった。考え過ぎて返事があいまいかつ遅くなったり、思ってもいないクールっぽい言葉を発して場を凍らせたり。むしろモテから遠ざかった苦い記憶が蘇る。

まずは話をちゃんと聞くこと

智子さんの話を聞きながら、もう少し現実的な「いい返し」を考えている。まずは相手の話をちゃんと聞くこと。これが意外と難しい。気を抜くと、聞いているうちに他のことを考えて上の空になってしまう。

次に、話を聞いたうえでの感想や意見、思い出したことなどをできるだけ具体的な言葉にすること。もちろん、相手を不当に傷つけないように注意はする。一方で、「こんなことを言ったらバカにされるんじゃないか」といった自己防御は取り払うべきだ。われわれが当たり障りのない返事をするとき、相手に配慮をしているのではなく、自分を無駄に守っているに過ぎないことのほうが多い。確かに無難だけれど、知的な相手からは「手応えがない。つまらない男だ」と思われるだろう。

相手の話をしっかり聞いたうえで積極的に自己開示をする。嫌われたりバカにされたりするリスクはあるが、「いい返しをするな」と喜んでくれる人もきっといるはずだ。

智子さんの話に戻る。婚活パーティや合コンは自分に向かないと悟った智子さんは、結婚相談所への入会を決意する。37歳のときだ。しかし、無数の相談所からどこを選べばいいのだろうか。智子さんは今度も親しい先達に頼ることにした。

「ご夫婦で経営している相談所が埼玉県にあります。私の自宅からはちょっと遠いのですが、友達がそこに入って4カ月で結婚を決めたので、話だけでも聞いてみようと思いました」

その友達も同行してくれて、結婚相談所へと向かった。所長は率直な人柄で、「うちも他の結婚相談所と同じデータベースを使っている。会える相手はどこも一緒」「30代も後半になると苦戦する。35歳になる前に来てほしかった」と明言。

入会すれば数万人の登録者がいるデータベースにアクセスできるが、智子さんが希望する条件である「東京圏に居住」「年収500万円以上」「34~45歳まで」をすべて満たす男性とお見合いするのは「多分無理」ともはっきり言われた。この人なら信頼できると感じた智子さんは入会を決意。入会金は18万円、月会費は1万円、成婚料は30万円である。決して安くはない。

「今の自分が欲しいのはおカネよりも結果だと思ったんです。1年間だけ一生懸命にやることにしました」

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