国連はまだ、移民問題に本腰を入れていない バングラ首相「首尾一貫した管理が不可欠だ」

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国連は現在、加盟国に移民を受け入れてもらう有効な手立てを有していない。だからこそ加盟国政府は、移民問題の国際的な枠組みの創設に向けて合意する必要がある。国連自体も移民の管理を別々の機関に委ねるのではなく、中心的なミッションの一つに据えるべきだ。

このほど国連に加入した国際移住機関(IOM)は、移民管理を首尾一貫した有効なものにするうえで、主体的な役割を果たすと期待されている。

私が首相を務めるバングラデシュも、移民管理の改善に特化したグローバル・コンパクトのアイデアを最初に広めた国だ。「移住と開発に関するグローバル・ フォーラム(GFMD)」の議長国として得た教訓を実践し、グローバル・コンパクトを知らしめる責務を負っている。

新たな合意が既存の取り組みの焼き直しになるのを避けるために、世界の指導者たちは今こそ行動を起こさなければならない。

国連が採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」や、開発資金に関する政策枠組みなどを定めた「アディスアベバ行動目標」、防災強化に関する「仙台防災枠組み 2015-2030」のような合意も形成する必要があろう。

移民がもたらすメリットを認識せよ

移民は多元的な問題である。だからこそ各国個別の法律や規制を尊重した包括的な取り組みが求められる。政策立案者は移民による経済的恩恵を最大化するとともに、移民が不法な選択肢に走らないよう法的な整備を進めなければならない。雇用や送金に関する障壁を低くしたり、移民の安全を守るなどの措置を講じるべきだろう。

各国政府や非政府機関には、移民が搾取されないよう警戒を続けることとともに、難民受け入れの責任分担も求められる。急速に変化する地政学的状況への対処を続け、移民や人々の大移動に対応するための新たな協力関係を構築するのだ。

移民を有効に管理するためには、しばしば相反する利害を調整する必要が生じる。各国の国益と、移民の人権や生活改善の欲求、多様性の拡大などとのバランスが取れるようにしなければならない。

ポピュリストが好む破壊的な一国主義への道に代わり、世界を建設的な協力に向かわせる道を整えるべき時がやってきた。進歩を最大化し、痛みを最小化するメリットを移民がもたらすと認識されさえすれば、その道は開かれるはずだ。

週刊東洋経済10月8日号

 

シェイク・ハシナ バングラデシュ首相

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シェイク・ハシナ / Sheikh Hasina

1947年に「バングラデシュ独立の父」である初代大統領ムジブル・ラーマンの長女として生まれる。ダッカ大学卒。75年のクーデターで父が暗殺されたのを受けて英国やインドなどで亡命生活を送った後、軍政から民主化への政治運動を野党党首として指導し、1995年首相に就任した。現在は3期目。

 

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