看過できない中国の地方政府債務問題 景気・経済観測(中国)

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しかし、だからといって、景気下支えのために再度地方政府による投資加速を容認するわけにはいかない。地方政府は、住宅などの不動産開発プロジェクトに力を入れてきたが、仕掛在庫まで含めて考えると、中小地方都市を中心に供給過剰感があることは否めないからである。また、リーマンショック後の4兆元の大規模景気刺激策による中西部などでのインフラ開発の効率性低下も懸念されている。

少子高齢化対応へ、財政支出拡大圧力が高まる

中長期的な財政の健全性維持の観点からも、地方政府債務の急速な拡大を看過するわけにはいかない。少子高齢化・人口減少による財政支出拡大圧力の急速な高まりが不可避だからである。

国連の低位推計によると、少子高齢化により、中国の生産年齢人口(15~64歳)、総人口ともに2015年をピークに減少していくとされている。少子高齢化・人口減少を受けた社会保障制度の構築が必要だが、現時点ですでに年金制度の綻びがみられる。例えば、2011年時点で、14省(新疆生産建設兵団を含む)の都市被雇用者年金基金の収支が赤字となっている(合計767億元)。

また、個人の年金積立口座から2.2兆元がすでに高齢者への年金支給に流用されてしまっている状態にある。加えて、中国の年金基金の規模は対GDP比で2%と極めて小さい。今後、高齢化の進展に伴い、年金基金の規模拡大は必至となろう。年金のみならず、医療保険も拡充しなければならない。

こうしたなか、政府には売却できる資産が豊富にあるため、それで必要な財源を穴埋めできるとの声も出ている。近年、政府の貸借対照表の推計が中国で盛んに行われている。主要な先行研究では、いずれも資産のほうが負債よりも大きいとの結果が得られている。未開発の国有鉱物資源や未販売の土地使用権などを加味すれば、中国政府には70兆元もの純資産があるとの推計もある(2010年末)。いざとなったらそれらの資産を売却すればよいため、財政改革をそれほど急ぐ必要はないという見方も出ているのである。

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