100円稼ぐのに1224円必要な鉄道があった! 中小私鉄からケーブルカーまで営業係数比較

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貨物廃止で営業係数が悪化した岳南電車(写真:木村 優光 / PIXTA)

一方で、5000人以上の平均通過数量を記録した20の鉄道事業者中、営業損失を計上したのは箱根登山鉄道(鉄道線)、静岡鉄道、広島電鉄(宮島線)だけであった。だが、この3事業者はいずれも減価償却費を除いた営業係数はそれぞれ86.2、95.2、93.2であったので、キャッシュフローの観点で言えば特に問題ないと言えるであろう。

2008年度と2013年度を比べても、平均通過数量が増えれば営業係数は好転し、その反対に平均通過数量が減れば営業係数は悪化する傾向がうかがえる。もちろん、平均通過数量の増加のかげには新規車両の導入といった投資が伴い、減価償却費が増大してかえって営業係数を悪化させるケースも多い。とはいえ、長期的な視点で見れば、平均通過数量を増やすことが営業収支を改善するための近道であろう。

貨物廃止で係数悪化の鉄道も

そうしたなか、2008年度と2013年度で平均通過数量があまり変化していないにもかかわらず、営業係数が大きく変動した岳南電車と東海交通事業とでは首をかしげたくなる結果が得られた。

岳南電車は2012年3月16日に貨物運送事業を廃止したため、2008年度に5703万6000円を記録した貨物運輸収入が失われている。この結果、営業収益は同年度の2億2942万4000円から2013年度は1億5730万3000円と7212万1000円減少。いっぽうで営業費用は2008年度が2億8588万9000円、2013年度が2億3254万1000円と5334万8000円しか減らすことができなかったので、結果的に営業係数の悪化という結果を招いている。

東海交通事業の場合、旅客運輸収入は2013年度が8086万2000円、2008年度が8148万9000円と大差ない。しかし、運輸雑収は2013年度が232万円であったのに対し、2008年度は1億7031万3000円であった。これは、同社が運行する路線である城北線の高架橋下の用地貸付事業を、2012年度から鉄道事業ではなく別部門で担当することとしたからだ。

なお、同社の営業費用は2008年度が4億3965万8000円だったのに対し、2013年度は2億8687万円と、実に35パーセントも削減されている。内訳を見ても、車両や施設の保守費用を極限まで抑えた形跡があり、大丈夫とはいえ乗るのが心配になってしまうほどだ。

東海交通事業城北線が敷かれているのは愛知県名古屋市や春日井市、清須市と人口の多い地域である。それにもかかわらず平均通過数量、営業係数ともに振るわないのは、旅客の流れを無視して線路を敷設したからにほかならない。

同線は、元はといえば同線は東海道線の混雑を解消するために計画された「北方貨物線」の一部だ。北方貨物線は岡崎―稲沢間を愛知環状鉄道、中央線、城北線経由で結ぶ計画であったが、貨物輸送の需要が減ったことに加え、東海道線と比べて大回りとなるために国鉄の分割民営化とともに放棄されてしまった。おかげで名古屋駅を通過する貨物列車の本数は多く、錯綜している。東海交通事業の親会社であるJR東海が名古屋駅を拡張しなければならなくなったとき、城北線が本来の役割を果たすのであろうか。

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