TV討論で「トランプの二流ぶり」が露呈した! まるでプロレスのマイクパフォーマンス

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彼女は、自身を苦労人の両親のストーリーで“中産階級・低所得者層の気持ちは私がわかっている”と印象付け、それと極めて鮮やかな対比として、「トランプ氏も嘘をついているのではなく、自分の富裕層という背景から信じていることを正直に話しているだけなのだ」と、低所得層・中産階級の代表vs.富裕層の代表という構図を鮮明に印象付けていた。

今回のテレビ討論第1ラウンドは、話し方・ボディランゲージ・話の内容のすべてで、ヒラリー圧勝であった。

一流のディベートに大切なこととは?

テレビ討論は、あと2回ある。トランプ氏は今後、どうすればよいのか。いやそもそもトランプはどうでもいいから、このようなディベートで、うまく立ち回るにはどうしたらいいのか。一流のビジネスリーダーや政治指導者の巧みなディベートの共通点から、そのインプリケーションを探りたいと思う。

人は見た目、話し方で9割説得され、話の内容は1割未満とはよく聞く話だが、この3点のすべてにおいて、正しく注意を払わなければならない。

まず外見に関してだが、見た目でヒラリーの圧勝だった。服装からして、健康不安で弱々しいというイメージがあった彼女が鮮明な深紅のスーツで力強さのアピールに成功した。これに対し、トランプ氏は冷静なイメージを出そうといつもの赤ではなく、青のネクタイでやってきた。しかし、彼に冷静な大統領像を演出させようとしても、特徴が消えるだけで、トランプの数少ない強みである”力強さ“を希薄化させる結果となった。

次に話し方だが、公開ディベートはつとめてゆっくりと腹式呼吸で落ち着いて話す。甲高い声で早口で話せば、それだけで負け戦だ。ディベート当日、トランプ氏はヒラリー候補の2倍速、3倍速で話していたが、内容はその10分の1にも満たなかった。

おまけに、相手の話に聞く耳を持たない印象をあれだけ植え付けては、一巻の終わりだ。トランプ氏のように相手の話をさえぎって何度も感情的に中傷を繰り返すようでは、弱い犬がキャンキャン叫ぶかの如く、非常に弱々しい愚かな印象を与えてしまうものである。

最後にディベートの内容だが、せめて質問に直接的に答えている必要があるのは言うまでもない。一部の、自分への熱狂的ファンだけ喜ばせばいい三流メディアだけで活動するのならまだしも、幅広い社会に向けたコミュニケーションをするのならば、内容とロジックのないパフォーマンスはいとも簡単に見破られてしまう。

特に、これはアメリカのうらやましいところだが、政治家の発言内容がポリティファクトのようなサイトで発言内容の真偽がつねにチェックされるインフラが整っている。言動の一致や発言内容の信頼性がつねにモニタリングされてしまうのだ。

ディベートするときは、パフォーマンスと内容の双方が伴っていなければ結局勝利できない。いざとなればK-1も総合格闘技もできる真の戦闘力、(政治の文脈で言えばビジョンと信念、戦略とロジックと支持層)を持ったうえで、一流のプロレスラーとしてパフォーマンスを織り交ぜて戦わなければ、勝てるわけがないのである。

皆様も、今後ディベートやスピーチに臨まれる際は、今回のトランプ氏の二流、三流と呼べるディベート内容を思い出して、他山の石としてほしい。本コラムをトランプ選対陣営が何かの間違いで読み、次回に生かされることを切に願う次第である。

ムーギー・キム 『最強の働き方』『一流の育て方』著者

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Moogwi Kim

慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、大手コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当した後、香港に移住してプライベート・エクイティ・ファンドへの投資業務に転身。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。著書に『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』と『一流の育て方』(母親であるミセス・パンプキンとの共著)など。『最強の働き方』の感想は著者公式サイトまで。

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