美容師テツさんに学ぶ中国でのブランド戦略
「小さいからできる」ブランド戦略とは

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ですから、大企業ほど定義を共有してベクトルをそろえる努力が大事になります。しかし、組織が大きくなると追いかけている夢や個性があいまいになりがちです。大企業のホームページを見ると各社「ブランドステートメント」などを持っていますが、その内容は、発展・革新・創造・未来・価値・貢献などの常套句から成る、誰も反対はしないが何の個性もない陳腐なものが多いように思います。

スターバックスのブランド戦略

よいブランドはよい定義を持っているもので、たとえばスターバックスのブランド価値は「Rewarding Everyday Moments」と定められています。自分たちがお客様に約束するのは「自分へのご褒美としての豊かな時間」である、というブランド定義です。「プレミアムコーヒー」にはいっさい触れていません(ハワード・シュルツがスターバックスの前身「Il Giornale」をスタートしたときのマニフェストには明確に「本格コーヒーを普及させて世界一のコーヒーバーになる」と謳われていました)。 

スターバックスが自分たちをコーヒービジネスでなくピープルビジネスと位置づけ、家庭と職場以外の第三のくつろぎの場所を顧客に提供していることは周知の事実ですが、私が注目したいのは「Everyday」という単語です。ここに彼らの事業・マーケティング戦略が凝縮されていると考えます。月に1度ではなく、週に2回でもなく、毎日来ていただきたい。ロイヤルティの高い超ヘビーユーザーを育成するのが彼らの戦略です。

そのために、コーヒー以外の飲料を積極的に導入し、フードの新メニューや季節メニュー、国ごとに異なるローカルメニューの展開をアグレッシブに行っています。中国のスターバックスには中国伝統茶も定番メニュー化されており、端午節には「粽(ちまき)」まで売っています。

「Rewarding Everyday Moments」はスターバックスの事業とブランドの定義であり、また将来へ向けたビジョンとミッションの表現でもあり、さらにお客様と社会に提供する価値と便益の約束までをも見事に凝縮しています。ブランドはトップから現場まですべての人々がそれぞれの持ち場でブランドの価値や精神を実践することによって出来上がってゆくものですから、簡潔な合言葉でブランド価値が共有されることはとても重要です。

世界のエクセレントブランドの成長の裏には「小さな秘密」があるのです。それがブランド核心価値の定義です。組織が小さいうちにブランドの方向性を定めるべきです。ナイキもスターバックスも、最初は名も知れぬちっぽけな会社だったのですから。

岡崎 茂生 フロンテッジ ソリューション本部副本部長

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おかざき しげお / Shigeo Okazaki

1981年東京大学教育学部卒業、1989年ピッツバーグ大学経営大学院MBA。1982年電通入社、2006年より北京駐在。北京電通 ブランド・クリエーション・センター本部長を経て、現職。30年におよぶ広告・マーケティング領域での経験をベースに、中国企業をはじめタイ、アメリカ、韓国、日本企業などを対象に幅広くブランド戦略コンサルティングを行なう。アジア各国およびアメリカの大学/大学院でのブランド講座・公開セミナー、フォーラムでのスピーチ、雑誌連載など多数。チュラロンコン大学商学部マーケティング学科客員准教授、南京大学ジャーナリズム&コミュニケーション学院客員教授、湖南大学ジャーナリズム・コミュニケーション&映像芸術学院客員教授。

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