貧困者を救済するには、何をするべきなのか 激論!鈴木大介×「失職女子」大和彩<後編>

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鈴木:心理における環境調整とは現状の認知行動療法だと思うのですが、最後の“脳の再発達”を支援するケアは、現状の精神科医療にはないと思います。だけど、可能性はある。僕は高次脳機能障害で左手の3指がまったく動かなくなりました。リハビリとして、最初は作業療法士の先生が手を添えて僕の指を曲げ伸ばしする、それに合わせて僕自身の力で動かそうとする、やがて先生が手を離す……すると「あ、これ。この神経!」という瞬間が訪れます。30分後に、最初から自力でやると全然動かないんですけどね(笑)。

でも、繰り返せば徐々に動くようになる。正しい方法をサポートしてもらい、「これだ!」と自分で納得して反復練習することで、脳の神経ネットワークが作り変えられる……体のリハビリ分野でも手探り段階ですが、同じ方法が脳のケガやメンタルの回復にも応用できるのでは?と思い至ったんです。

実現可能かどうかはまだわかりませんが、脳科学やリハビリの専門家には“つらさから逃れる心のコントロール法”へのヒントがたくさん眠っているはず。僕はそうした人たちと一緒に方法を探っていきたいんです。

当事者が発信することの難しさ

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――困難な状況に陥ったのは、その人の資質や過失によるものではないケースが多い。家族、または社会から押しつけられる場合もあれば、思わぬ病気、ケガが原因となる場合もある。誰にでも起こりうることなのだ。にもかかわらず「自己責任」に終結させているかぎり、社会は鈴木さんがいう“つらさから逃れる心のコントロール法”を見つけられないだろう。

鈴木:そのことをわかってもらうためには、当事者が言語化して発信していく必要があります。同時に、つらさを疑似体験してもらえる仕組みがないかと考えています。最近では特殊メガネや重しを装着して高齢者の感覚を疑似体験するプログラムがありますが、それの高次脳機能障害や発達障害、うつ病のバージョンを開発できないものか、と。そうすれば、困っている人たちへの想像力を少しでも強化できます。

大和:当事者が言語化して発信するとなると、難しさもあります。問題は、そこに至るまでの経緯を振り返る作業です。私の場合、これは強い希死念慮(死にたいと思う気持ち)の引き金となるので、医師やカウンセラーから止められています。

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