中国トップ経営者がハマる「毛沢東思想」 政治の「神」から経営の「神」へ

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また、ワハハグループの宋慶後氏も「毛沢東思想は企業管理において非常に参考になる。中国の成功した大企業は、毛沢東のようにすべて権限を独占する独裁タイプの人物ではないか」と指摘している。

アリババ・ドットコムの馬雲氏は中国IT世代のオピニオンリーダーで、日本でいえば楽天の三木谷氏のような存在だ。彼は「毛沢東の子供」だったこと隠そうともせず、こんな風に毛沢東思想について言及している。

「私は企業経営のたみに、毛沢東の1949年(中華人民共和国建国の年)以前の意志決定と方法論について、多くの時間を費やして学んだ。軍事的にも思想的にも毛沢東ように優れた人物は世界にも数少ない。晩年の狂った毛沢東だけを取り上げて毛沢東を全否定する議論には反感を感じる。客観的に毛沢東思想のいい部分を知ることも必要だ」

現在の中国の統治原理は、階級闘争を重んじた毛沢東思想ではなく、柔軟かつ現実主義に基づいて改革開放を唱えた鄧小平理論だ。政治的にはすでに過去のものとなった毛沢東がこれほど経営者にとって大切にされる理由を考えてみたい。

毛沢東語録は、聖書であり、論語だった

当然、「教育」の影響はあるだろう。1960年代に編纂された毛沢東語録の印刷部数は50億冊に上ると言われる。その時代、脳の吸収力が最も活発な年齢にあった子供たちは毛沢東を崇拝させるプロパガンダ教育を受けた。当時、学ぶべき対象、信じるべき対象は毛沢東以外にはなく、毛沢東語録が聖書であり、論語でもあった。

これを「洗脳」と呼んでもいいのだが、後の文革のような過激な政治運動を進めた毛沢東の行動が過ちだったことも現在の中国人は十分に理解している。それでも、日本の戦前の教育勅語などについても言えると思うが、善悪を超えて、人間というものは、過去に学んだもののすべてを自分の中から消し去ることはできない。

ただ、過去の教育だけで現在の経済人を動かすことはできない。日本で活躍する中国人エコノミストの肖敏捷さんも、アリババの馬雲氏らと同じ世代に中国で教育を受けており、毛沢東思想について、こんな風に解説してくれた。

「個人的な経験から言うと、毛沢東思想は宗教そのもので、小さい頃から毎日たたき込まれてきたので、そう簡単に忘れられるものではない。ただ、今日においては、政治やイデオロギーというより、一種の精神論としてわれわれの世代への影響が大きい。毛沢東語録には論語にあるような、いい教訓が意外に多い。あの当時、論語などの古典を読むことがなかった若者にとって、一種の古典の精神を表現している毛沢東の思想は自然に身に付いたものと言える」

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