急ぎすぎた「マック改革」超深層  「藤田田」全否定に、社員、FCは疲労困憊

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昨年2月のこと。荷物を持ち上げた高野店長の腰に激痛が走った。ぎっくり腰だ。病院に直行したが、筋肉注射を打ち、コルセットをして翌日も勤務せざるをえなかった。さらに4月、手のしびれを感じて検査したところ、症候性脳梗塞が発見された。医師から「過労状態。睡眠は十分とるように」と言われたが、休めない。本社方針で、6時半の早朝営業を開始したが、高野店長のような郊外型店舗では、長時間化をカバーする人員を確保できないからだ。シフトの空白は店長自ら埋めざるをえない。

月100時間以上の残業で満身創痍の状態に追い打ちをかけたのが、上司の一言だった。「店長の勤務実態に会社は一切責任を持たない。それは自分の能力の問題だ」。このとき、高野店長は会社と争う腹を固めた。

裁判の争点は店長は残業代の支給対象とならない労働基準法上の「管理監督者」に当たるのかに絞られ、東京地裁で審理が続けられている

初の労組結成 怒るFCオーナー

マックに初めて組合ができた。5月29日、現役店長を中心とする同社初の労働組合「日本マクドナルドユニオン」の結成が発表された。参加者は200人。「原田氏がCEOになってから改革のペースが速すぎ説明が不十分。売り上げ至上主義のため長時間労働を強いられ多くの同僚が退職した」。初代労組委員長となった勤続20年の栗原弘昭店長は会見で語った。

「会社と対立する気はないし、改革も必要と思う。ただ、なぜ、これほど急ぐのか。人が絡む問題を一気に変えてしまうことに社員は納得していない」。結成会見の数日前に定年制度の廃止が発表されたが、栗原氏は新聞報道で初めて知った。

04年から店長以上の定期昇給が廃止され、栗原氏自身、年収が150万円下がった。しかも、労働市場の逼迫から、社員もアルバイトも採用がままならず、先行きを不安視する同僚の退職は今も続いている。

「賃金よりも、とにかく仲間の退社が止まる状況をつくりたい」。会社側は組合の存在は認めたものの、要求には一切、ゼロ回答のままだ。

「原田改革」に困惑しているのは社員だけではない。400人弱のFCオーナーも同様だ。FCが中心の米国とは異なり、日本マックは店舗数の7割が直営店でFC店は3割にとどまる。日本のFCは会社に貢献した社員への「のれん分け」に限ってきたためで、FCのオーナーの95%を元社員が占める。そのオーナーたちが、揺れている。

「再契約はできません。資産の買い取り価格はゼロ円です」。昨年4月、神奈川県の「マクドナルド246大住台店」のSオーナーは、マクドナルドFC本部の担当者から告げられて仰天した。当然の権利と思っていた契約更改ができない? しかも、買い取り価格はゼロ円?

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