中国当局が腐敗告発者を"別件逮捕"した理由 習近平政権下で強まる言論への規制<2>

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区伯はこの9カ月前の3月、ネットを通じて知り合ったある人物と、隣の湖南省に旅行に行った。現地でさらに、陳という男を紹介され、共に食事をした。その後、陳がおごるというので、カラオケスナックに酒を飲みに行ったが、そこで区伯は地元の警察に身柄拘束されるはめになった。買春の疑いだ。

「カラオケの部屋の中で、ちょっと休憩を取ろうとしたら、(ホテルの)部屋に行って寝なよと(陳に)言われた。それで部屋に上がって寝ようとしたら、女の子が入って来て、拘束された。全部、計画的だ」

中国にあるカラオケスナックは、一般的にかなり大規模で、5人や10人が座れる個室がいくつもある。個室には、モニター付きのカラオケマシーンが置かれており、どこからもその画面が見えるように、ソファがL字かコの字型に配されている。客の横には店の女性たちが座り、一緒に酒を飲んだり歌ったりするのだ。しかし、そこは夜の世界、それ以上の「違法」なサービスを提供する店があるのも事実だ。

区伯が思い当たったのは、その日の朝の出来事だ。湖南省は、毛沢東の出身地であり、毛の銅像がある公園は、旅行者に人気のスポットになっている。その朝、区伯はその公園に観光に出かけたのだが、そこで偶然、広州の警察のナンバープレートを付けた車を見つけた。区伯はその車を写真に収め、すぐさまウエイボーにアップした。そして、広州の公用車が湖南省の観光地に来ている疑いがある、と告発したのだ。

5日間の刑事拘束のみで釈放

区伯は結局、5日間の刑事拘束のみで釈放された。区伯の言葉を借りれば、「広東省の警察で公権力を握る"利益層"が、、(湖南省の)長沙の公権力に働きかけ自分を陥れたにちがいない」。釈放後、区伯は長沙で紹介された男、陳を探したが見つけられなかった。この「買春騒ぎ」にきな臭さを感じたネット民らは、陳と同姓同名の人物が長沙の警察内にいる、と突き止めたが、2人が同一人物であるかどうかは、誰も確認できていない。

長く公用車の不正使用を告発し続けてきた区伯は、度々嫌がらせや圧力を受け、暴力を振るわれた経験もある。その彼が今回の「買春騒ぎ」を経て、次のように話す。

「公権力に対する認識があまりに甘かった。政府はいつも、監視することを歓迎する、と言っていたが、監視していたら(自分が)やっつけられた。実は監視されるのを嫌がっている。監視であっても言論であっても、私たちは公権力のレッドラインを、きちんと見るべきである。彼らには最低限がない。公権力には限度がない。庶民がその線を越えると、必ずやられてしまう」

――あなたが考える、越えてはいけない線とは?

「最後の線です。それは、党の批判をしてはいけない。(中国では)共産党は永遠に正しいのです。党を批判してもダメだし、政府を批判してもダメです」

そう締めくくった区伯自身さえ、いつどこで線を越えたかは、はっきりしていない。ただ、越えてはいけない線が確実に存在している現実は、はっきりした。

宮崎 紀秀 ジャーナリスト

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みやざき のりひで / Norihide Miyazaki

日本テレビ報道局、社会部警視庁担当記者、外報部デスク、中国総局長などを経て現在はジャーナリストとして北京在住。主に「バンキシャ!」「ミヤネ屋」「ウェークアップ!ぷらす」など日本テレビ系列で放送する報道番組にコンテンツを提供。中国がらみのルポを得意とする。

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