一流の人間は、「負け」を転がしてカネにする 格闘家・青木真也「夢を語るのは詐欺師だ!」

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地上波中継をする場合、普段は格闘技を見ないような視聴者からも受け入れられなければいけない。相手を倒して、関節をひねって勝ったとしても、お茶の間からは「アイツはズルい」と言われることもあったりする。

僕が小さい団体で戦っていたときは、一目見ただけではわからない動きにも、コアなファンは喜んでくれた。

ところが、中継が入るようなメジャー団体で相手を押さえ込むと、「何しているんだ。動け動け」と言われてしまう。当時は、「ここで数字が落ちている」と、テレビ局員からはっきりと言われることもあった。

僕は、勝つことに全神経を注いでいるのだから、数字がどうなっているかなんて関係ない。正直うっとうしくも感じていた。

だが、中継がなくなって初めて、彼らのありがたみを実感するようになった。テレビ放送があるのとないのとでは、ファイトマネーも大きく変わるし、世間の反響もまったく違う。

視聴率なんか気にせず、わかってくれるファンだけに向けて試合をするのは心地よいかもしれないが、内輪の小さい団体でやっていた頃に戻りたいとはみじんも思わない。結局、マニアックなファンだけを相手にしていても、メシを食っていくことはできないと痛感させられたわけだ。

僕は格闘技が好きだからやっているけれど、「やりがい」だけがあればいいとは思わない。プロである以上、すべてはカネで判断されると覚悟するべきだ。

だから、僕はもっともっと大衆に迎合し、そこから生まれるカネにこだわっていく。

負けを転がしてカネにする

今までの試合のベストを挙げるならば、長島☆自演乙☆雄一郎選手との戦いになる。大観衆の前で大恥をかいた試合で、ネット上では今でもバカにされ続けている。

正直に言うと、負けた後の1年くらいは苦しかった。文字どおり「地獄」に落とされたような気分にもなり、試合を見返すことはできなかった。
ただ、時間が経ったことで、試合に対する自分の考え方にも変化が出てきた。

あの試合は、僕が日本中の恥さらしになった一方で、格闘技を普段見ない人の間でも話題になり、良くも悪くも僕の知名度を上げてくれた。

世間の人が「あの青木真也」と言うときの「あの」は、この敗戦を指している。どんなものであれ、「あの」を持っていることは選手としての僕の価値になっている。

今では、あれが僕の「代表作」であり「財産」だと言うことができる。
勝負事はどれだけ勝ちに徹しようと、負けるときがあるものだ。偉そうなことを言って負けたときには、正直言って苦しい。

しかし、大事なのは「負けを勝ちにする」ということだ。

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