“ギャンブル化”する日銀の金融政策 行きすぎた円安と不動産バブルのおそれ

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「高額の新築マンションが分譲されるようになり、販売も順調なようだ」というのは東京カンテイの中山登志朗・上席主任研究員。象徴が東京都千代田区富士見の2物件だ。三井不動産グループが販売するパークコート千代田富士見ザ・タワーの坪単価は約420万円。東京23区の平均坪単価約290万円に比べ4割以上も高い。にもかかわらず、総戸数505戸を3月に完売した。野村不動産のプラウドタワー千代田富士見レジデンスの坪単価は約450万円。第1期販売85戸は、4月14日の抽選で完売するペースで申し込みを受けているという。

日銀が01~06年に量的緩和を行うと、07年に不動産株指数、08年に公示地価が、高値をつけた(図)。今回の異次元緩和後も同様の動きになるかどうかはわからない。しかし、期待に働きかける黒田総裁の狙いがうまく機能すれば、不動産価格が上昇する可能性はある。

不動産価格は、賃料収入との見合いで定まるもの。オフィスや住宅の賃料が上がれば、物件価格の上昇も理にかなう。しかし、緩和の効果が景気の浮揚に結び付き、企業収益が増え、賃金が上がるということがなければ、不動産賃料は上昇し難い。そのときは、不動産価格の上昇はバブルだった、ということにな る。

そもそも資産価格の上昇を通じて消費や投資を活発化させ、景気を浮揚させるという資産効果は、米国で取られた手法。米国の家計資産に占める株式の比率は33%あり、株価が上昇すれば消費もある程度上向く。しかし日本は同7%。株価が上昇しても資産効果は限定的だろう。

異次元緩和は、政府・日銀の狙ったとおりの物価上昇・景気拡大が実現しない可能性がある。そのときに残るのは、世界でも類を見ないほどに膨張した中央銀行のバランスシートと、先進国で最悪水準の政府債務だ。日本円、日本国債に対する信認が失墜したとき、日本国民の生活は窮地に追い込まれる。異次元緩和の副作用にも十分注意しておかなければならない。

週刊東洋経済2013年4月20日号

井下 健悟 東洋経済 記者

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いのした けんご / Kengo Inoshita

食品、自動車、通信、電力、金融業界の業界担当、東洋経済オンライン編集部、週刊東洋経済編集部などを経て、2023年4月より東洋経済オンライン編集長。

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福田 淳 東洋経済 記者

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ふくだ じゅん / Jun Fukuda

『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などを経て編集局記者。

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大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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