「月収20万」…木更津シングル母の届かぬ望み DV元夫の借金260万円は返済したが…

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「私が働くことで、子どもがおかしくなった。まず、夜泣き。2人とも。あと、おねしょ。それまでもあったけど多くなって、ちょっと異変を感じたんですね。母親にも“ちょっと変よ”って言われて、やっぱり母親が毎日一緒にいるからよくわかる。朝、仕事に行くときに娘が“仕事行かないでぇ”ってワンワン泣きじゃくって、泣き顔と絶叫みたいな声が頭から離れなくて。私が一緒にいる時間が少ないことが原因でした。すごくまずいと思った。それでなんとか借金を完済して夜のスナックを辞めて、介護施設の日勤のダブルワークをすることにした」

実家も廃業するほど経済的に追い詰められていた。もう、これ以上は甘えられないと思った。4年前、介護に転職してから現在のアパートに引っ越している。佐々木さんは介護の仕事に出合って、この仕事を自分のものにしようと思った。介護職のダブルワークを1年続け、3年前に正社員の雇用で現在の福祉用具レンタル販売の会社に就職する。

「生活が本格的に苦しくなったのは、実家を出て介護の仕事を始めてから。介護はこれから必要な仕事だし、自分の好きな仕事だし、頑張れば何とかなるってがむしゃらにやった。でも、いくら頑張ってもすごく貧乏で、何かおかしいんじゃないかみたいなことを思ったこともあったけど、私は学歴ないし、なんの能力もないから頑張るしかなかった。とにかく必死で働いたけど、子どもに好きなことをやらせることもできない、この状態です。情けないです」

過剰な人手不足なのに賃金は上がらない

勉強して専門性を身に付けても、結果を出しても手取り20万円は難しいと話す佐々木さん

介護事業所は、介護保険制度からの介護報酬で運営する。介護職、福祉関係職の低賃金は社会問題になり、過剰な人手不足だ。しかし、介護報酬は需要と供給に関係なく国が決めるので、どんな人手不足に陥っても、介護職の賃金は上昇することはない。典型的な官製貧困といえる。

さらに、ブラック労働を強いて、公金を不正受給する介護事業所が後を絶たない。低賃金の職種に就き、さらに会社から搾取される佐々木さんが貧困から抜け出すことは、今のままでは難しい。

「頑張って専門性を付けたし、売り上げは上がっているし、社長には子ども2人と普通に生活するために手取り20万円は欲しい、そう言った。まだ明確な返事はもらってないけど、ダメでしょうね。最低賃金で働く人がいくらでもいると思っているし。長男は来年中学生、自分の好きな介護を続けたいなんてわがままを言えませんね」

ハローワークや求人情報を眺めても、シングルマザーが普通の生活を送れるような賃金の求人はない。頑張った4年間の介護の経験と、信頼されている利用者を捨て、元旦那が働いていた海沿いにある鉄筋工場に転職しようか迷っている。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。

 

中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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