障害者殺傷事件、なぜ犠牲者は匿名なのか 障害者に対する日本の姿勢が問われている

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日本の障害者に対する取り組みは前進している。日本は2014年、国連の「障害者権利条約」に批准。今年4月には「障害者差別解消法」が施行された。安倍晋三首相は、少子高齢化に対処すべく、共生社会をつくる計画のなかで、障害者について常々言及している。

だが、障害者のなかでも特に認知機能障害のある人は、いまだに偏見に苦しむことがある。また、多くの西側先進国とは違い、家族もその恥辱を共に背負っている。

神奈川県警は事件後、日本のメディアに発表した声明のなかで、事件のあった施設が認知障害のある人たちが入所する施設であり、家族のプライバシーを守る必要があることから、犠牲者の名前は公表しないとした。

県警はまた、犠牲者の家族が同事件の報道について特別の配慮を求めていたことを明らかにした。

秘密の恥

障害のある5歳の息子、真輝(まさき)ちゃんの医療費をめぐり「金くい虫」などとインターネット上で誹謗(ひぼう)中傷を受けているという与党・自民党の野田聖子議員(56)は、事件の犠牲者の家族が匿名を望んだことは驚きではないと話す。

「障害者の家族には2通りあって、1つは積極的に障害児であることをアピールして、世の中を変えていこうというポジティブな人もいるが、『声なき多数』は社会に対して非常にネガティブで、家族に障害児がいることを知られたくない、騒がないでほしいと思っている」と野田議員はロイターに語った。

事件の犠牲者の家族は、施設に身内を入れたことで、捨てたと非難されるのを危惧した可能性もあると、専門家や活動家は指摘する。

今回の犠牲者が匿名で報道されたのと全く対照的だったのが、同じく7月に起き、日本人7人が死亡したバングラデシュ人質事件の犠牲者に関する報道だ。

「障害がない人であれば過剰なくらい被害者の情報が出る。明らかに障害がある人と障害がない人の場合が別で、違和感がある」と語るのは、非政府組織(NGO)日本障害フォーラムの原田潔氏。

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