流山市が「ママ創業支援」に乗り出した事情 「母になるなら流山市」から6年

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専業主婦になった人の精神的なサポートや再就職支援を行っている団体も少なくない。たとえば、NPO法人「パートナーシップながれやま」は10年来、子育てなどを理由に仕事を辞めてしまった女性を鼓舞し、再び社会に出て行く手伝いなどをしている。

同団体は女性のエンパワーメントを目指した「ワタシへのごほうび講座」を流山市から受託、企画・運営。2時間×5日間の講座では、人権や男女共同参画の意味、自分らしく生きることの意味や頑張り過ぎない子育てなど、母親が自分自身を考える内容が組まれている。

背景には、出産あるいは育休後に離職した後に、自己評価が極端に低くなってしまう女性たちの存在がある。実践型創業スクールで教える尾崎氏も仕事と子育てが中途半端になるのが嫌との理由で、仕事を辞めて自ら起業したものの、「依然と同じような仕事をしても『旦那さんのおカネで生活できているなら、仕事は趣味でやっているんですよね』と報酬をクオカード一枚に値切られるなど、不本意な評価を経験してきました」と自身の経験を振り返る。

「ロールモデル」が増えることの意義

「都内なら多様な受け皿があったのかもしれませんが、当時の流山市には自分のキャリアを生かせる仕事はなかった。スキルアップの講座受講費用を家計から出すのを躊躇するママ、子どもと話す時間が長く、ビジネス会話に自信がなくなったというママもいる。無償で働くのが当たり前、能力があっても正当な評価を受ける機会がない、そんな環境では自己肯定感が下がるのは自然なことなのかもしれません」(尾崎氏)。

「ワタシへのごほうび講座」の参加者は毎年25人と多くはないが、前述の近藤市議など、流山で活躍する女性にはこの講座の修了生が数多くいる。1期から4期の修了生12人が参加する「流山子育てプロジェクト」なるユニットでは、8人が市の審議会委員を務めている。

「子どもがいても萎縮することなく、自分らしく生きる」ロールモデルがこの講座を通じて生まれ、流山市で活躍するこうした女性たちの活動がSNSや市のホームページ、市の広報紙に掲載され、拡散されていく。こうした取り組みが続けば、より多くのママたちが、自身の新たな可能性に気づけるのかもしれない。

もっとも、こうした取り組みが目に見える形として表れるのには時間を要するだろうし、支援団体や創業講座などを受講した母親たちが連携して、点を面に広げていくことが欠かせない。自治体としてはたぐいまれな試みが、どの程度、この街を選んだ母親たちの満足度に寄与するのか。今後の動向を注視したい。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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