「仙石東北ライン」が牽引する震災復興の威力 街の再生へ期待を乗せ走るハイブリッド列車

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車両はディーゼル・ハイブリッド方式のHB-E210系で、同じJR東日本の小海線を走るキハE200形のメカニズムを踏襲している。直前に乗ったキハE200形と比べるとエンジン音がやや耳についたが、加減速性能は同じ線路を走る電車と遜色はない。

途中、塩釜駅までは東北本線を走る。興味深かったのは、東北本線内のみの利用者もいたことだ。彼らにとっては、同じ地上ホームから出発することも使いやすさにつながっているのだろう。

逆に仙石線利用者にとって、快速が廃止されたことはマイナスだ。仙石東北ラインが乗り入れる高城町より遠方に行く人は地上ホーム、それより手前が目的地の人は地下ホームという使い分けが負担となるが、導入から1年以上が経過していることもあり、大きな混乱はないようだった。

塩釜駅を過ぎて少し走ると、右側に仙石線の線路が近づいてくる。しばらく並走した後、列車はまず下り線から上り線に渡り、続いて新たに整備された約300mの連絡線を、かなり速度を落として通過し、一旦停止。その後仙石線に乗り入れ、高城町駅に停車した。

ハイブリッド車の威力発揮

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海岸沿いから高台に移設された野蒜駅(筆者撮影)

鉄道ファンならご存知かと思うが、東北本線は交流、仙石線は直流と、電化の方式が違うので、連絡線には架線はない。ディーゼル・ハイブリッド車を投入した最大の理由はここにある。おかげで設備費用は最小限で済んだ。非電化路線の環境対策のために生まれたハイブリッド技術を、こうした場面に投入した柔軟な発想も賞賛されるべきだろう。

高城町から先は松島湾の脇を走ることになるが、陸前大塚駅を通過したあたりで海岸線に別れを告げ、真新しい高架橋に入った。高台移設の区間だ。沿線に住宅はなく、造成地が続く。この区間には東名(とうな)駅と快速も停車する野蒜(のびる)駅が移設されており、鳴瀬川を渡る橋梁で従来の路線に戻る。

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内陸の嵩上げされた土地に移設された女川駅(筆者撮影)

これ以降はやや内陸を走るので、車窓から見る限り住宅への被害は少ない。石巻駅周辺は数年前に訪れたので、今回は下車しなかったが、駅前は市役所の隣に市立病院が移転してくるなど、歩いて暮らせるコンパクトなまちづくりを目指した「石巻市まちなか再生計画」が進みつつあった。

石巻線のディーゼルカーに乗り換え、女川へ向かう。甚大な浸水被害を出した旧北上川を渡ると右へカーブし、万石浦沿いに出る。万石浦は牡鹿半島に挟まれた入り江で、津波の被害は軽微だったが、トンネルを抜けた女川町中心部は駅もろとも流された。そこで駅は内陸側に200m移動し、7〜9m嵩上げされた土地の上に構築された。

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