世界的に広がる低金利のミステリー 説得力があるのはどの意見か?

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別の説は、長期金利の低迷は新興国経済の重要性が増している(ただし、重点は個人貯蓄ではなく、公共貯蓄に置いている)ことに起因しているとして、バーナンキ議長の説を踏襲している。

新興国経済の資産市場は脆弱性が高いため、国民は「避難場所」として先進国の国債を求める傾向があるとするものだ。また、新興国経済は発展するのが早い反面リスクも大きく、社会的セーフティネットの脆弱性への不安が強いため、国民は貯蓄に走りやすいともしている。

中央銀行も個人同様 貯蓄に走る傾向がある

こうした説にはメリットもあるが、私たちが理解すべきは、過剰貯蓄の直接的かつ最大の原因は一般国民ではなく、中央銀行や政府系ファンドにあるということだ。当然のことながら、政府にも個人と同様の思惑が働いているのである。

加えて、先の新興国台頭説は都合良くはあるが、よくよく考えるとさほど説得力がない。新興国経済は先進国経済より成長が早く、新古典派的成長モデルによると、これは金利の低下ではなく、上昇につながるはずだ。同様に、グローバル経済に新興国経済を加えることは労働力の大量流入も意味する。スタンダードな貿易論によれば、労働力の過剰供給は資本収益率の上昇につながり、これも金利の低下ではなく上昇要因となるはずだ。

もちろん、どの説明においても、特に中小企業間で起こった国際的な信用収縮を考慮する必要がある。貸し出し基準が厳しくなったことで、国際的な投資の重要な財源が締め出されてしまい、これが金利を引き下げる要因となった。

私の考えでは、国際的な先行き不安が薄まる一方で成長性が高まる局面においては、金利も上がり始める。しかし、その変遷のタイミングを予測することは非常に難しい。世界的な貯蓄過剰をめぐる難問は今後数年間続く可能性がある。

(撮影:Bloomberg via Getty Images =週刊東洋経済2013年4月20日号

(C)Project Syndicate

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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Kenneth Rogoff

1953年生まれ。1980年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1999年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001〜03年にIMFのチーフエコノミストも務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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